妻が別居中の夫の生命保険契約を夫の代理人として解約したことにつき代理権があったと認められた判決 | なか2656の法務ブログ

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1.はじめに
『金融法務事情』2062号等に、保険契約者の夫にかわり委任状などをもとに妻が生命保険契約の解約を行い解約還付金が支払われたところ、その後、夫から保険会社側に苦情申出があったため夫に二重払いを行い、さらに保険会社側(日本郵便)からその妻の請求は無権代理であると返還訴訟が提起された、珍しいというかみっともない事案が掲載されていました(東京地裁平成27年3月13日判決)。判決は日本郵便側を敗訴させています。


2.事案の概要
(1)概要

本件は、妻(Y)が、別居中の夫(A)を保険契約者、長男を被保険者とする簡易保険の一つである生存保険金付学資保険を、夫の代理人として解約し、解約還付金約406万円の支払いを受けたところ、その後、その支払いを行った日本郵便(X)から、これは無権代理によるものであるとして、不当利得の返還請求等の訴訟を提起されたものである。

(2)原告
なお、簡易保険に関しては、郵政民営化により日本郵政公社より簡易保険の保険契約の管理に関する地位を承継した独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構(以下「管理機構」という)から、かんぽ生命が管理等の業務の委託を受けており、さらに、かんぽ生命から日本郵便が保険金、年金、還付金の支払いなどの業務の再委託を受けている関係となっている。

(3)事実関係
Aは平成4年3月4日、国(郵政省)との間で、保険契約者・保険金受取人をA、被保険者を長男、保険金額を500万円とする、生存保険金付学資保険(18歳満期)の保険契約を締結した。なお、本保険契約の保険料はYの父が全額支払っていた。

Aからの婚姻費用の支払いが滞り生活が困窮していたYは本保険契約の解約を思い立ち、平成20年9月頃、b郵便局の窓口でその手続案内を受けた。そして同年12月23~25日頃、b郵便局に電話をして手続書類が揃ったので来てほしいと告げた。同月26日にb郵便局の職員Fは、Y宅を訪問し、委任状、A名義の健康保険被保険者証およびA名義の運転免許証の提示を受け、請求書類等を受領した。(なお判決文によると、委任状に署名押印したのはAでなくYであった。)

これを受けて、管理機構は解約還付金等差引約406万円を支払う旨の平成21年1月13日付支払通知書をYに対して送付した。Yは同年5月19日、b郵便局を訪問し同支払通知書を提示し、上記約406万円の支払いを受けた。

ところで、b郵便局は上記支払通知書発送後もいつまでもYが訪問しなかったため、Aの住所(P県c市)宛てに支払いの受領を促す通知文書を発送していた。

それを受けて、Aは平成21年10月初めに住所付近のd郵便局を訪問し支払い請求をしたところ、同郵便局の担当者からすでに支払い済みである旨の回答を受け、苦情申出を行った。本件保険契約の支払いの際のYの提出した委任状の文字がAのものと違うことなどをAから指摘され、管理機構は無権代理の過誤払と判断し、同年11月20日に、Aに対しても約406万円を支払った(二重払い)。

このような経緯を経て、X(日本郵便)がYに対して無権代理により不当利得の返還請求(民法703条)または解約還付金相当額の損害賠償請求(民法117条)のために提起したのが本件訴訟である。

3.判旨(東京地裁平成27年3月13日判決、【確定】)
『Xの主位的請求である不当利得返還請求においては、Yが「法律上の原因なく」利益を受けた(民法703条)こと、すなわちAがYに本件代理権を与えなかったこと(および表見代理も成立しないこと。なお、Aの追認がないことは明らかである。)について、Xが主張立証責任を負うのが相当であると解されるところ、他方、Xの予備的請求である無権代理人に対する損害賠償請求においては、Xとしては、YがAの代理人として本件解約請求等を行ったことを主張立証すれば足り、Yが抗弁として「自己の代理権を証明すること」(民法117条1項)が必要であると解される。』

『本件代理権の直接証拠としては、Y作成の陳述書およびY本人の供述のみということになるが、この信用性の検討にあたっては、本件解約請求等の当日、A名義の健康保険被保険者証(略)およびA名義の運転免許証(略)をYがFに提示したことが重要になる。』

『本件健康保険証は、Aが当時勤務していたG健康保険組合が保険者となっている平成18年4月<日付略>交付のものである。また、本件運転免許証は、平成20年7月<日付略>交付のもので、表面の住所欄には「d市<住所略>」が印刷されている。
 上記のとおり、平成16年初め頃には、AがYとの別居を開始し、その後、一切同居していないことに照らし、いずれも別居開始後に交付されたものであることから、これらの原本はもとより、その写しを被告が所持していたことは、通常では考え難く、Yの求めに応じて、Aがこれらの写しを送付してきたものと考えるのが自然かつ合理的である。そして、YがAからこれらの写しの送付を受ける理由が本件解約請求等以外あることを裏付ける証拠はない(略)から、本件解約請求等のために送付を受けたものと推認するのが相当である。』

このように判示し、裁判所はAからYへ代理権の授与はあったとして、X側の請求を退けています。

4.検討・解説
本件は全体的に日本郵便・管理機構等の側の事務のルーズさが目立つ事件です。保険契約の解約にあたっては、保険会社は二重払いをしないように、つまり債権の準占有者への弁済を行った者として保護を受けるために(民法478条)、その解約事務において高度な注意義務が求められます。そのため、届出印と委任状の印との照合や、解約請求書等の筆跡と、保険契約締結の際の申込書の筆跡との照合などが求めらます(中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大穀『保険業務のコンプライアンス 第3版』283頁)。

この点、Fおよびb郵便局は、Yから提出された委任状と解約請求書などを照らし合わせて、郵便局の段階で書類が不備であると気が付くべきです。また、本社部門である管理機構の契約保全部門も、かんぽ生命の事務集中センターに保管されているであろうAの本件契約の申込書など一件書類を倉庫から出してきて、委任状や解約請求書等の筆跡や印鑑などの照合を保険会社として当然行うべきです。この点も管理機構や日本郵政側は怠っているものと思われます。

このブログではときどき日本郵政グループを取り上げていますが、民間生命保険会社にはあり得ない、全体的に業務に非常にルーズな組織だという印象を持ちます。

■参考文献
・『金融法務事情』2062号89頁
・『銀行法務21』814号69頁
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大穀『保険業務のコンプライアンス 第3版』283頁

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