全国の防犯カメラに映った万引き犯の映像を共有化するデータベースの構築は許されるのか? | なか2656の法務ブログ

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1.防犯カメラに映った万引き犯の映像を共有?
前回のブログ記事で、店舗や商店街内の防犯カメラの映像のデータがダダ漏れとなっていることについて書きました。

・防犯カメラ・ウェブカメラの映像が「丸見え」な問題について/安全管理措置・保管期間

同じく、街中にある防犯カメラに関しては、1か月ほど前にNHKのウェブサイトに掲載された、つぎのようなニュースが個人的に気になっていました。

万引きの防止に取り組んでいるNPO法人「全国万引犯罪防止機構」が、被害を未然に防ごうと、防犯カメラに写った万引き犯の画像をさまざまな店の間で共有できるデータベースの構築を目指して、具体的な検討を始めることになりました。』(NHKニュース2月19日より)

・万引き犯の画像 被害未然防止へ共有検討|NHKニュース



このNPO団体はやる気まんまんのようで、NHKもそれを肯定的に取り上げていますが、法的なハードルはいろいろとあるような気がします。

2.プライバシー権の問題
このNPO法人は、NHKの取材に対して、「防犯が目的であれば、画像を共有すること自体はプライバシーの侵害にあたらない」と回答したそうです。

しかし、そう簡単に言い切ってよいものなのでしょうか。

プライバシー権とは、古くは、「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」として、憲法13条により保障されるとされました(「宴のあと」事件第一審判決・東京地裁昭和39年9月28日)。

そしてその後、プライバシー権はより広く、「自己に関する情報をコントロールする権利」(自己情報コントロール権)であるとされています(芦部信喜『憲法[第3版]』117頁、野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ[第5版]』275頁)。

最高裁判決は、従来は「プライバシー権」という表現を用いていませんでしたが、平成以降の判決は正面から使用しています(「石に泳ぐ魚」事件・最高裁平成14年9月24日判決など)。

もちろんプライバシー権も無制限に保障されるものではありません。憲法13条により保障されるものである以上、「公共の福祉」の制約に服します。

とはいえ、プライバシー権は精神的な人権に属するものであることから、その制約は、経済的な人権に比べて、謙抑になされるべきです。

この点、京都市伏見区役所弁護士会からの照会(弁護士法23条の2照会)に対して漫然とある市民の前科を回答したことが、その市民のプライバシー権の侵害にあたり違法であるとして、国家賠償法上の賠償責任を認めた極めて著名な判例があります(「前科照会事件」最高裁 昭和56年4月14日判決)。

NHKのウェブサイトの記事などでは細かく載っていないので判然としませんが、しかし、うえで挙げた、京都市の前科照会事件に照らして、警察に捕まり、裁判所の刑事裁判を受け、判決が出され、刑が確定した人物の前科ですら、みだりにその前科の情報を提供すると、その相手方がたとえ弁護士会であったとしても、違法・不法行為との評価を受ける可能性があります。

ですので、このNPO法人「全国万引犯罪防止機構」が検討している、万引き犯の映像を共有するデータベースというものは、かりにその対象が、裁判所の確定判決を受けた万引き犯(窃盗犯)であったとしても、前科照会事件に照らして違法と評価されるおそれがあります。

そして、もしこの万引き犯の映像を共有するデータベースが、裁判所による確定判決を受けていない、「容疑者」「被疑者」の段階であったなら、容疑者をデータベースに載せ、全国の小売店でデータを共有するということは、プライバシー権侵害であるとともに、完全に私人が私人を勝手に裁く、「自力救済」の世界の話であって、一応、「法治主義」を建前とするわが国において許容されない行為であると思われます。

(なお、前科や犯罪歴などは、個人情報のなかでも特に取扱に注意を要する、センシティブ情報(機微情報)であり、各種の官庁のガイドラインなどにおいて、注意して取扱うべき旨、規定されています。そして今国会に提出された個人情報保護法の改正法案においては、このセンシティブ情報は、「要配慮個人情報」という名称で、個人情報保護法の本体に明文化される予定です。)

3.コンビニ店舗内で撮影されたビデオ記録の警察への提供が争われた訴訟
この点、コンビニ店舗内で撮影されたビデオ記録の警察への提供が争われたつぎの訴訟が今回の事案を考える参考になると思われます。

■名古屋高裁平成17年3月30日判決
(1)事実の概要
原告Ⅹは、平成13年8月18日、名古屋市内のホテルに宿泊した際に、架空の名前を使ったことを理由として、有印私文書偽造・同行使罪(刑法159罪)、旅券業法違反の罪で同年11月に逮捕された。それに先立ち、同年8月18日、愛知県警察本部の警察官が、捜査のために当該ホテルの近くにあるコンビニエンスストアに赴き、任意で捜査への協力を要請し、同コンビニの店長YからⅩが映っているビデオテープなどを受け取った。

その後、不起訴処分となったⅩは、Yに対して、防犯カメラの撮影によって、違法に肖像権、プライバシー権が侵害され、さらにそのビデオテープが警察に提供されたことによって精神的苦痛を受けたとして、民事訴訟を提起したのが本訴訟である。

(2)判旨
本高裁判決は、コンビニの店長Yが防犯カメラのビデオテープを警察に提供した行為につき、つぎのように判断していることが注目されます。

「これに対して、同じく警察に対するビデオテープの提供であっても、本件コンビニ内で発生した万引き、強盗等の犯罪や事故の捜査とは別の犯罪や事故の捜査のためにこれが提供される場合には、もはやその行為を本件コンビニにおける防犯ビデオカメラによる店内の撮影、録画の目的に含まれているものと見ることはできず、当該ビデオテープに写っている客の肖像権やプライバシー権に対する侵害の違法性が問題になってくる。」そこで、ビデオテープの警察への提供が違法か否かは、「提供されることになった経緯や当該ビデオテープに録画された客の行動等の具体的事情から個別的に判断されることになる。」

(3)検討
このように、この高裁判決は、コンビニが警察という公権力に捜査の協力をする公益目的の場合ですら、ある小売店におけるある万引きなどの事件の写った防犯ビデオカメラのビデオは別として、別の事件や事故のためにビデオテープを提供することは、写っている客の肖像権やプライバシー権に対する侵害の違法性が問題となると判示しています。

そして、この高裁判決などを受けて、コンビニ各社は防犯カメラの映像の取扱に関するガイドラインを社内で制定したそうです。セブンイレブンやセイコーマートなどは、「店舗と無関係の事件では、任意の警察の要請は断る」とのガイドラインを作成したそうです。(後述の石村修教授の論文より。)

NPO法人「全国万引犯罪防止機構」が検討しているというデータ共有のデータベースは、民間の小売業同士が、別箇の万引きなどの事件の対応のために、それぞれの防犯カメラの映像を提供し合おうというのですから、まさにこの高裁判決が指摘する、写っている客の肖像権やプライバシー権が問題となってきます。

さらに、防犯カメラの映像を目的外に利用して訴訟となった事例として、防犯ビデオの映像を週刊写真誌に掲載したことが、防犯ビデオの設置の目的外であり、違法に肖像権を侵害したものであると判断した判決があります(東京地裁平成18年3月31日判決・判タ1209号60頁)。

このような裁判例の流れからみても、このNPO法人「全国万引犯罪防止機構」の構想は法的にかなり無理があると思われます。

4.個人情報保護法の問題
つぎに、個人情報保護法の観点からみてみると、現行の個人情報保護法のもとにおいても、経済産業省の個人情報保護ガイドラインの2-1-1「個人情報」は、「【個人情報に該当する事例】」のひとつとして、明確に「事例3 防犯カメラに記録された情報等本人が判断できる映像情報」をあげています。

ですので、小売業などの事業者は、防犯カメラに映った顧客の映像は、個人情報であるとして、個人情報取扱事業者としての様々な義務を負います。

個人情報取扱事業者は、その個人データの取得にあたり、本人に対して利用目的の「通知」または「公表」しなければならないと規定されています(個人情報保護法18条1項)。

そこで、防犯カメラをどう考えるかが問題となりますが、同法18条4項4号は、「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」には、この通知または公表は不要と規定しており、防犯カメラはこれにあたると解されています。

つまり、我々国民・市民は、商店街を歩いていたり、店舗にはいったときに防犯カメラをみかければ、「ああ、防犯の目的で撮影しているのだな」と思って、内心、それに(嫌々ながら)同意をしているわけです。

しかし、その国民・市民の内心の同意は、あくまでもその当該店舗や、当該商店街内の防犯の目的に限られると思われます。まさか、商店街などにある防犯カメラをみかけて、それに撮影された自分の映像が、小売店の情報共有データベースにより全国の小売店の事業者に共有されることに心から同意するなどという、プライバシー意識の皆無な、おめでたい国民・市民は存在しないでしょう。

街中に張り巡らされた監視カメラに映った自分の映像やさまざまなデータが政府に共有されて、国民・市民が監視カメラで365日24時間監視され続けるという世界は、たとえば最近大きくヒットしたSFアニメ作品『PSYCHO-PASS サイコパス』が近未来の超監視社会の日本の姿として描いたディストピア(絶望郷)です。

そのような意味で、このNPO法人の映像を共有するデータベースは、個人情報保護法18条に抵触しますし、また同時に、個人情報の利用目的の明確化・利用目的の変更禁止などを義務付ける同法15条、16条にも反します。

また、個々の小売店とこのNPO法人との関係がよくわからないのですが、もしデータの授受において、第三者提供の場面がでてくるのであれば、それは本人(国民・消費者)の同意がなければすることはできません(同法23条)。

4.まとめ
このように、このNPO法人が検討しているデータベースは、法的に突っ込みどころ満載すぎます。小売店の方々が万引き被害で大変な思いをされており、警察がそれにしっかり対応していないという話も聞くのですが、しかしこのデータベースは法的にあまりに無理ではないでしょうか。

半年ほどまえに、中古の漫画やアニメグッズなどの中古屋の「まんだらけ」が、万引き犯の画像を「自力救済」として自社のウェブサイト上で公開しようとしたことが、社会的に大きな話題となりました。1社がやっただけであれだけ大きな社会的な賛否両論の反響があるわけですから、小売業が一斉にというのは、よりいっそう無理ではないでしょうか。場合によっては消費者の反感を買い、全国の顧客の不買運動といったことにもなりかねません。

・まんだらけ、「万引き犯」の写真公開中止 警視庁が要請|朝日新聞

現在、すでに成立したマイナンバー法(番号法)が2016年1月に施行されることを踏まえ、全国の会社が対応に追われているところです。

この法律に基づく、公的な「国民総背番号制度」にすら、「監視される」と嫌悪の念を感じる国民・市民は多いと思われます。にもかかわらず、何ら法的な根拠を持たず、民間が勝手に「自力救済」として防犯カメラの映像を全国の小売店で共有するデータベースを作り、運用し、それが国民・市民に知れるところとなったら、その嫌悪感や怒りはマイナンバー法どころの比ではないのではないかと思います。不買運動とともに集団訴訟などが提起されるリスクもあるのではないでしょうか。

■補足
●本年3月に通常国会に提出された個人情報保護法の改正法案については、こちらをご参照ください。
・【解説】個人情報保護法の改正法案について/ビッグデータ・匿名加工情報

弁護士会照会(弁護士法23条の2照会)については、こちらをご参照ください。
・【金融機関の守秘義務】弁護士会照会(弁護士法23条の2)への対応

マイナンバー法(番号法)については、こちらをご参照ください。
・マイナンバー法(番号法)への民間企業の対策

■参考
3.の部分については、専修大学の石村修教授の「コンビニ店舗内で撮影されたビデオ記録の警察への提供とプライバシー」『専修大学ロージャーナル』3号19頁を参考とさせていただきました。

・芦部信喜『憲法[第3版]』117頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ[第5版]』275頁
・宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説[第4版]』238頁

憲法 第六版



憲法1 第5版



個人情報保護法の逐条解説 第5版 -- 個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法



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