お金に対する考察 その7 MMTにおける「貨幣」と「通貨」 | 次世代に引き継ぐ日本

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MMT 現代貨幣理論入門では、「貨幣(money)」と「通貨(currency)」を下記のように定義しています。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784492654880



「貨幣」は、硬貨や紙幣、要求払預金(いつでも現金化できる普通預金や当座預金)、準備預金(日本でいうと日銀当座預金)などがこれに当たるとしています。

要は支払いや決済に使用出来る存在を「貨幣」としていて、準備預金を除けばみなさんが「お金」と認識しているものと相違ないと思います。



「通貨」は、中央政府や中央銀行が発行する硬貨や紙幣、そして準備預金がそれに当たるとしています。

日本だと、マネタリーベースとして統計が取られているものがこれに当たります。



さて、日本語だと「通貨」は流通する貨幣という意味ですが、下記日銀のWebページには「預金通貨」という単語があり、銀行預金も通貨として定義されているようです。そして、預金の発行者は銀行だとも書かれています。

https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/faqms.htm/



しかし、上記の現代貨幣理論入門では「現金通貨」という単語は出てきますが、「預金通貨」という単語は出てきません。あくまでもMMTでは、中央政府や中央銀行が発行する「貨幣」を「通貨」としているようです。(私が読んでいるのは日本語版なので、原文がどうなっているかまでは調べていません。)

本書で預金が「通貨」ではない理由が明確に述べられているわけではないのですが、私の解釈では預金は発行された銀行から動かない(つまり流通しない)からです。



XさんがA銀行からB銀行にあるYさんの口座に1万円振り込みをする場合、

①A銀行はXさんの口座から1万円の預金を消す。

②A銀行はB銀行に日銀当座預金を1万円支払う。

③B銀行はYさんの口座に1万円の預金を作る。

という手順で実施されます。

表面上は預金がA銀行からB銀行に移動したように思えますが、実際に移動するのは「通貨」である日銀当座預金(準備預金)であり、預金は銀行内で消えたり作られたりしているだけなのです。




次に「貨幣」ですが、法律的な面を無視すれば誰でも元手なしに作る事が出来ます。その辺の紙切れに「1万円」でも「1万日本ドル」とでも書けばそれは「貨幣」となります。


しかし、それが「貨幣」として機能する(他の誰かが何かの対価として受け取ってくれる)かどうかは別問題です。



最も現実的な方法は、銀行にその紙切れを持って行って、銀行が発行する「貨幣」である預金と交換してもらう事です。銀行内の審査を受け信用があると判断されれば、その紙切れは預金と交換されるし、場合によっては「通貨」に直接交換されます。



上記は銀行の業務である貸付行為ですが、預金を発行するのに「通貨」である現金や日銀当座預金という元手は必要ありません。

ですが、銀行間決済(振り込み)や現金への交換要求に備える為に「通貨」を準備しておく必要があります。



「通貨」と同じ計算単位(例えば日本円)を使用した「貨幣」を発行するという行為は、最終的に「通貨」による返済の義務を追うという事であり、その事を自身で許容出来るのであれば、相手が受け取ってくれるかどうかは別問題ですが「貨幣」はいくらでも発行できるのです。



この事が何を意味するのかと言えば、「通貨」を増やしても、民間が使用できる「貨幣」の量が必ずしも増えるわけではないという事です。

民間が使用している「貨幣」は、ほとんどが預金なので(現金の割合は1割未満)、預金の量の増減が民間の「貨幣」の量に直結します。



日本銀行はデフレ対策として金融緩和(民間銀行保有の国債を買って民間銀行が持つ日銀当座預金の量を増やす)を実施しましたが、あまり成果をあげる事が出来ませんでした。

狙いとしては、民間銀行の日銀当座預金を増やす → 銀行が貸し出しを増やす → 預金の量が増える → 「貨幣」の量が増えるのでインフレに振れる(デフレが解消される)、だったはずです。



確かに預金の量が増えればインフレに振れていきます。しかし、預金発行に日銀当座預金という「通貨」は必要ないので、日銀当座預金を増やしても預金の量はそれほど増えませんでした。

なぜなら、預金を増やす為には誰かが銀行にお金を借りてくれないと駄目だからです。いくら銀行内に貸す為の資金(日銀当座預金)が余っていても、お金を借りてくれる誰かがいないと預金、つまり民間の「貨幣」の量は増えないので、デフレも解消出来ずにいる、というのがここ数年の出来事です。



もちろん金融緩和が預金を増やす効果的な場面もあります。それは銀行間決済や預金引き出しに支障をきたす程、銀行保有の「通貨」の量が不足して銀行が貸し出しが出来ない場合です。おそらく高度経済成長期はこのようなシチュエーションだったと思います。



しかし、経済成長期は通常インフレなので、金融緩和はインフレを加速させる方向に働きます。


逆に日本銀行が金融引き締め(民間銀行に手持ちの国債を売って日銀当座預金を回収する、金利を上げる)を実施すると、銀行はお金を貸しにくくなります。リスクを無視して儲けの為に無理に貸し付けを続けると、どこかが返済出来なくなった場合に取り付け騒ぎにまで発展する可能性があります。



中央銀行は「通貨」の量を調整する事で、民間の「貨幣」の量を調整出来るとなっていますが、「貨幣」の量を減らすのが得意で、増やす方は実は余り得意ではないのです。

つまり、インフレ退治は得意だけど、デフレ退治は不得意なのです。