労働者か,事業者か。
例えば,ある建設会社で現場仕事を任せていたAさんがいたとします。
「明日から来なくていいよ」と告げました。
するとAさんは,労働基準法に違反する解雇権濫用を主張し,解雇の無効,及び,解決までの賃金を請求してきました。
この場合,どのように考えるべきでしょうか。
そもそも労働基準法が適用されるためには,
働いていた人物が労働基準法上の「労働者」にあたる必要があります。
労働基準法9条において,
労働者は,「職業の種類を問わず,事業又は事務所…に使用される者で,賃金を支払われる者」
と定義されています。
つまり労働者とは,使用者に労務を提供し,賃金を得る者です。
そのため,労働者か否か判断される重要な観点は,
(1)使用者の指揮監督下で働いている者か(労務の観点)
(2)労働に対する対価を受けている者か(賃金の観点)
という2つです。
その他業務に使用する道具を会社が用意しているか否かや,
当人が他社の業務に就くことが許されているかなどの観点もありますが,
基本的には上記2つがポイントとなります。
もう少し詳しく見てみましょう。
「(1)使用者の指揮監督下にあるか」を判断するには,
①依頼した仕事の諾否の自由があるか,
②業務の具体的内容や遂行方法に関する指示があるか・どの程度指示されるか,
③勤務時間・場所に関する指定や管理がされているか・どの程度されているか
等,さまざまな考慮要素があります。
「(2)労働に対する対価を受けているか」を判断するには,
①他の同程度勤務する従業員と金額・支払い方法に差があるか,
②時間に応じた報酬が支払われているか等を考慮します。
以上の要素のうち,どれか一つでも欠ければ労働者と言えないというわけではなく,
総合考慮によって労働者性は判断されます。
名目上労働者か事業者かといった点は重視されません。
例えば,
自分のトラックを持ち込んでいる運転手について,
業務遂行の指示内容が限定されており,一般の従業員のような勤務時間規制もなく,
出来高で報酬が払われているなどの諸事情を考慮して,
労働者には当たらないと判断した判例などがあります(横浜南労基署長事件,最高裁平成8年11月28日判決)。
仮にAさんが労働者と判断されれば,
労働基準法が適用され,辞めさせる(解雇させる)には相当厳しい要件を満たさなければなりません。
また,そうなると,現実にそのAさんが働いていなかったとしても,
「使用者の責めに帰すべき事由」によって働くことができない期間であったとして,
民法536条2項が適用され,その期間の賃金を払わなければならないかもしれません。
裁判例でも労働者性が争われている事例は多く存在します。
会社側としては,人を使って業務を運営する際,労働者として働いてもらうのか,
それとも事業者として外注しているのか,最初の段階で明確に納得してもらった上で,
働き始めてもらうことが望ましいでしょう。
後のトラブルを避けるための対策として,労働者側だけでなく,使用者側にとっても有効です。