【弁護士北村栄の連載vol.7】議員定数削減、本当にいいの? | 名古屋第一法律事務所 お知らせ・ニュース

【弁護士北村栄の連載vol.7】議員定数削減、本当にいいの?

議員定数削減、本当にいいの? 

-民意の反映に大きく反する「民意を切る改革」にNOを!-

 

 昨年10月20日に、自民党と日本維新の会が連立政権に際し「基本合意」を交わし、その中で「1割を目標に衆議院議員定数を削減するため、令和7年臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指す」ことが明記されました。

 日本維新の会は、この提案を「身を切る改革」として、連立参加の絶対条件として立法案を国会に出しました。

 しかし、議員定数削減はいくらかの経費削減の意味はあるとしても、最も重要な「民意」が反映されなく、権力の横暴を許してしまうことになります。

 そこで、今回は議員定数削減の問題点を分かりやすくお伝えしたいと思います。

 

 

Q:ニュースでもよく見ますが、提出された法案はどれほど削減するものですか。

 

A:衆議院議員定数を現行の465から45以上削減するというもので、法施行後1年以内に法制上の措置をとるとしつつ、結論が得られなかった場合は自動的に小選挙区25、比例代表20を削減し、定数を420とするというものです。

 

 

Q:それほど削減しなければならない根拠はあるのでしょうか。

 

A:経費の削減と言われていますが、年間35億円程度の削減が見込まれるとの試算はありますが、100兆の国家財政からすれば財政的な効果を殆ど持ちません。
 そして、実際にも、それ以外の削減する合理的な理由は挙げられていないのです。

 

 

Q:日本の国会議員は世界的に見て多すぎるのでしょうか。

 

A:衆議院の調査室の「選挙制度関係資料集」によりますと、主要7カ国(G7)の立法府議員1人当たりの人口は、日本が17万5千人であるのに対し、英国が4万6千人、フランスが7万人、カナダが8万7千人、イタリアが9万8千人、ドイツが11万9千人であるとされており、日本の国会議員1人当たりの人口は、G7の中で最低水準となっています。ですので、日本の国会議員数は国際的に見ても少なく、これ以上削減する合理的な根拠はないのです。

 

 

Q:なるほど。削減をする必要がないことはよく分かりましたが、削減すべきでないとの理由はどんなものですか。

 

A:削減をすると、民主主義においては一番大事な「民意」が反映されにくくなるということです。
 選挙は、民意を国会議員の議席に反映させることを通じて民主主義を実現する制度ですが、選挙制度のこのような本質からすれば、できる限り民意を反映させる制度とすべきです。しかし、定数を減らしてしまうと、国会において民意の反映が後退するうえ、今回は比例代表選挙の議席が削減の対象として狙われていて、より影響が大きいのです。

 

 

Q:比例の議席の削減が大きな影響があるというのは?

 

A:小選挙区選挙は死票が多く、民意を反映させる機能は乏しいのに対し、比例代表選挙は、死票が少なく民意を反映させるという機能を強く持っているからです。
 実際に、2024年10月に行われた衆議院議員選挙では、全国の死票の数は2800万票(小選挙区得票の52%)を超えていたと報じられており、選挙制度を改定し、より民意の反映をさせやすい選挙制度とすることが急務となっています。
 このような状況下で、より民意を反映させやすい比例代表選挙の議員定数を減らすことは、民意を反映させる制度とするべきという選挙の本質的要請に反するものであり、到底認められないのです。民意が反映されにくい選挙制度は、政治に対する国民の不信や無関心を助長させるものですので、是正されなければならないのです。

 

 

Q:その他にも問題はありますか。

 

A:はい、国会が持つ内閣を監視する機能も減衰することになります。
 国会議員は憲法第43条で「全国民を代表する」と定められており、全国民の代表として行政を監視する役割も担っています。また、議院内閣制の下、与党の国会議員のうち一部は内閣に所属しない与党議員も行政の活動を支援する立場にあり、実質的には野党の国会議員が行政監視機能を担うことになっています。
 第一次高市内閣では、大臣、副大臣、政務官、総理大臣補佐官の合計は80名以上ですが、議員の議席を減らすとなれば、内閣に所属する議員の割合が増えるとともに、相対的に野党議員の議席数が減り、国会の行政監視機能が弱まることが懸念されます。

 

 

Q:それは困りますね。しかし、周りを見ますと「経費削減」「身を切る改革」の言葉に踊らされて削減を支持する声が多いように思えますが。

 

A:困ったものですね。これまでお伝えしたことがまだ国民のみなさんに十分届いていないと思います。
 一般の国民の思いは、特に自民党議員の裏金疑惑や汚職など、国会議員がその地位を利用して私腹を肥やし、国民の為に活動していないことに端を発した、国会議員が国民の収入に比して高い国会議員歳費等を受領していることに対する政治家不信の現れであると思います。
 しかし、定数を削減したとしても、国会議員が身を切ったことにはならないし、これによって国会議員の裏金問題や汚職がなくなることもないのです。

 

 

Q:よくわかります。

 

A:ここでよく理解しなければならないことは、国会議員定数の削減、特に比例代表選挙区の定数の削減で最も影響を受けるのは少数政党だということです。
 一般に少数政党は国民の少数者の民意を代弁し、与党の裏金や汚職の問題を追及することが多いことからすれば、国民の多数が削減に賛成しているからといって削減をしてよいということにはなりません。むしろ、議員定数の削減は裏金や汚職の問題の追及を弱めることにつながりかねないのです。国会議員の定数削減は「身を切る改革」ではなく、一番大事な「民意を切る改革」に過ぎない、というべきでしょう。

 

 

Q:「身を切る改革」というのであれば、裏金や汚職に繋がりやすい企業献金や政治資金パーティーなどを規制すべきではないでしょうか。

 

A:そのとおりですね。実際にこの議員定数削減が出されたきっかけは、企業献金など政治と金の問題で自民党が曖昧な姿勢を取ったことで公明党から三行半を突き付けられた後、維新の会が政治と金の問題を隠すように持ち出してきたものですからね。
 実際に高市首相は、党首討論で、企業・団体献金の見直しについて問われた際、「そんなことよりも」と定数削減に話題を変えました。
 私たちは、問題の本質をしっかり見抜いて、声を上げていかねばなりません。