これは……重いというかなんとも言えない作品です。

 

テーマは「安楽死」

激痛にもがき苦しむ21歳の末期がん患者・章太郎と、親代わりの伯母の頼みを聞き入れ、安楽死を選んだ外科医・白川。

今までまったく病院にも寄り付かなかった母から告発された白川は、警察に事情聴取を受け、殺人か過失致死かという状況になってしまう。

法的に認められていないと分かってはいるが、それでも自分のしたことは間違っていなかったと信じる白川。

 

そんな白川の周りで、急速にいろいろなものが動き始める。

安楽死法制化させたい一派と、それを阻止したい一派。

ただひたすらに患者のことだけを考えていた白川は、

それぞれの思惑の渦に巻き込まれていく。

 

というお話。

読みながら、どっちの意見も「せやなぁ」と思ってしまう。

それくらい、「どっちが絶対」はない問題なんだと思う。

 

高齢の患者はまだしも、若い患者は基本的な体力があるもんだから、どんだけ苦しんでもなかなか命の終わりが来ない。

つまり、地獄の苦しみが長期間続くということ。

激痛に苦しみ、体中から出血し、皮膚はどす黒くなり、ただベッドの上で苦しみながら命をつないでいるだけの人を救うために安楽死を。

こう言われると、確かにそんな状況があるのに「最後まで希望を捨てないで」というのはきれいごとだなと思う。

 

でも逆に、安楽死が認められてしまうと、

経済力な理由や看病や診療が大変だからという理由などで

「本人の希望」と言わされるようになっていく、悪用もされていくというのを読むと、

確かにそうだな、本当に本人が希望しているかどうかなんて判断は、その状況では難しいだろうしなと思う。

 

何事にもいい面も悪い面もあるものだけど、

安楽死については、そのいい面と悪い面があまりに両極端で、

どっちかを「しょうがない」と捉えることができない問題だから難しいんだろうな。

 

推進派の戦術によって、世間が圧倒的に賛成になっていくんだけど、

その様子がどんな問題でも同じやなって感じた。

どっちかの意見が優勢になってくると、逆の意見についてはシャットアウトされだして、

まるで反対意見がないかのような報道がなされる。

それによって、また迷ってた人がさらに賛成になっていく、もしくは賛成しないといけない風潮になっていく。

作品の中に「この国を律しているのは正義でも理念でも経済でもない。常に社会を覆うただの『空気』だ」という言葉が出てくるんだけど、

ほんとにその通りだなと思う。

だからこそ、常に自分の中で客観的に物事を見るということを守っていかないといけないと思う。

 

「理想を追い求める者は、往々にして空想的になりがち。そして理想が高ければ高いほど空想から妄想へ、やがて暴走から破滅へと向かう」

これも本文にありますが、その様子を目の当たりにするような作品でした。

理想を持つのって大切だけど、いきすぎると怖いもんだな。