凪の生活は地獄だった。
凪は25歳で結婚した。
夫は真面目で穏やか。
子どもは女の子が二人。
4人家族で、平凡な生活を送っている。
何が地獄だったかというと、凪の生き方である。
とにかく、人間付き合いが下手くそなのだ。
夫の友人、ママ友、パート先の人間関係、誰ともうまく付き合えない。
何故なら発する会話が全て不安と愚痴だからだ。
凪も自分が自分でない様な感覚に囚われて生きていた。
相変わらず、不安と手を繋ぎ、虚弱でちっぽけな自分を必死で隠している、子供の時からの刷り込みだけは分厚く凪の思考を覆ってしまった。
自分の感覚を見失ってしまった凪はしだいに認めて欲しい。許して欲しい。愛して欲しい。
という欲求を抱えて生きるようになった。
いい迷惑だったのは夫と娘達だ。
凪の承認欲求を満たすため、夫には過度にご近所付き合いや自治会の役員などを勧めた。
娘たちにはお友達と仲良くして、お利口で頭の良い子供になって欲しくて教育費にやたらにお金をかけた。
しかし、どれもこれも上手くいかず、凪はヒステリーを起こす。そして、日常会話はほとんど愚痴になった。
夫や子供は凪が小さい時に祖母の話を困ったような顔をして聞いていた時と同じように、内心はなんてつまらない、なんて嫌なママなんだ。よその優しいママならよかったのに。と、思っていたから、余計に凪が満足する様な反応は示さなかった、
不安と、不満は地層のように重なっていく。
どんどん、どんどん惨めな気持ちになり、下を向いて背中を丸めて冷や汗をかいて生きていた。
どこを見ても誰にあってもみんな凪をダメなやつ、信用ならないやつ、やばいやつと、思われているような気がする。
凪は、ある日一人部屋の中でうずくまり、被害妄想の中で苦しんでいた。
そして、声を出さずに全身で叫んだ。
助けてください。
そして
叫びながら天を仰いだら
体の力がスーッと抜けて軽くなっていった。
助けてください。
その一言が凪の邪気を一つ払ったのだ。