新聞連載!選ばれる会社になる知的資産経営(2) | 中小企業の知的資産経営と災害対策・BCP

中小企業の知的資産経営と災害対策・BCP

強みを見える化して活かす「知的資産経営」と、災害対策やBCP策定をご支援しています。

物流ニッポン新聞で4/25から知的資産経営に関する連載を始めました。月1回ペースですが、ブログでも後追いで載せていきますのでぜひお読みください。

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学校給食食材会社の知的資産経営

 小中学校生がいらっしゃる家庭の皆様におうかがいします。お子様は肉と魚でどちらが好きですか?魚は骨があってもきれいに食べられますか?ではあなた自身はどうですか?

 水産加工のA社は、社長と経理・営業の奥様以外13人の職人がいるだけの小さな会社だ。毎日築地市場から鮮魚を仕入れ、給食用にさばき切り身などにして23区内の小中学校に納品している。



 A社は2011年に商社に顧客を取られ売上が激減し経営危機に陥った。リストラを行いなんとか立て直したが社長は自信を無くしかけていた。そんなとき金融機関の勧めがあって、強みの見える化、知的資産経営報告書の作成に取組んだ。(実際は言われるままに専門家と会った。)



A社の事業環境と経営理念



 日本は世界有数の魚食大国であるが消費者の魚離れが進行している。特に若い世代ほど顕著だ。外食や弁当・総菜で食べる魚は多くが外国産の冷凍物だ。つまり私たちは日本でとれる生の魚(鮮魚)を食べなくなっているのだ。



 一方、学校給食は昼食を提供するだけでなく食を通じて教育をする場であると、平成17年に食育基本法で定められている。



 A社の経営理念は明文化されていなかったが、社長と話しているうちに明確な理念をもっていることがわかった。「日本の魚食の素晴らしさを子供達に伝える」だ。この思いは会話の端々に溢れていた。



A社の知的資産



 A社は台東区・文京区・江戸川区の3区の小・中学校で平均56%の高いシェアをとっている。これが最初に見つけた知的資産である。先代の社長が1970年代から関係を築き上げてきた結果だ。一般に、ある市場セグメントでシェア1位を取るには41.7%のシェアが必要と言われる。シェア1位のセグメントは利益を出しやすい。



 水産物の仕入れ・加工においても、経営理念の思いから素晴らしい知的資産があった。



 まず、骨がいやで魚を食べられない子供のために、全職人が骨取りの技術を持ち100%社内で骨を取り切り身にしている。これは学校側にとっても骨が喉に刺さるなどの事故の心配が無くなることにつながる。



 さらに仕入れのこだわりだ。輸入冷凍物増加の中、魚は本来地産地消で新鮮なものを食べるのが自然な姿との思いから、国内産かつ鮮魚にこだわった仕入れを行なっている。これは食育基本法の理念にも合致する。



 その他、主な知的資産は図を参照していただきたい。「知的資産」といっても難しいことはなく、要は会社の持つ「強み」「魅力」「差別化ポイント」であることがわかる。A社はこれらの事業環境、経営理念、知的資産を専門家の力を借りて「知的資産経営報告書」として見える化した。



 丸清知的資産



報告書の作成と活用



 A社は知的資産経営報告書の作成を通じて自社を見つめ直し再発見した。その結果会社の魅力を明確にプレゼンできるようになった。



 営業担当の奥様は営業ツールを全面的に見直した。それまでは品目毎の料金表とファックスによる注文方法が書かれただけであったが、知的資産経営報告書を使って経営理念と知的資産を説明するように変えた。これが小中学校の栄養教諭の共感を得て、2ヶ月で8件の引合を得ることができた。栄養教諭に「この魚屋から買いたい」と思わせたのだ。さらに、金融機関が仲介して持ち帰り寿司会社を紹介された。他者もA社の魅力を説明できるようになったのだ。



知的資産を活かす経営



 A社の知的資産は必ずしも意識的に構築してきたものではない。長年の誠実な経営の結果としての信頼と、日本の魚食の素晴らしさを子供たちに伝えたいという思いから、なかば自然に備わったものだ。しかしこれが報告書として見える化できた今、A社がやるべきことは知的資産を劣化させずに維持・強化すること、そして知的資産を有効に活かし他社と差別化した戦略を立てて実行することである。これが「知的資産経営」だ。



 次回は知的資産とは何か、その基本から具体的に見ていくことにする。なお、A社の知的資産経営報告書は経済産業省の知的資産経営ポータルサイトで公開されている。(http://www.jiam.or.jp/2012marusei.pdf


【物流ニッポン新聞 2013年6月6日掲載】