翌日、長野県警本部で捜査会議が行われていた。

「捜査一課長、事件の概要を説明してくれたまえ！」

「はい、捜査一課の徳田です。

本日は遠方の福岡からわざわざお出で頂いておりますJN局の遠藤次長様と持田局員様、ありがとうございます。

事件の概要を申し上げます。

今から約一ケ月前の2月3日の夜に日本アルプスの開拓村甲地区で集会場が火災を起こし、翌日の朝まで延焼して全焼となり、

やっと鎮火した跡から、13人の焼死体が発見されて、検死解剖の結果、全員が焼死では無くて、全員毒殺ということが分かったのでした。

それも鼠駆除剤による殺害であると判明したのです。

始めは誰かの無理心中の可能性も考えられたのですが、13人の死亡時間と火災発性時間とのズレなどから、他の誰かによる犯行の可能性が高まり、捜査している最中です。

この開拓村は30年前に今別の事件で服役中の花田嘉則、62歳が発案して自然農法と集団農業による特別な独自の法案を課して山間部の荒地を開拓して自分達の村を造ったものでして、男性村と女性村が別々に存在するという奇妙なシステムの集落です。

『エデンの園農場』と言う名前でして、一度は聞かれたことがおありだと思います。

その村長の花田嘉則は約20年前に隣村の13歳の少女を誘拐して殺害し遺体放棄の事件で逮捕され、無期懲役の罪が確定して服役中ですが、裁判中から、犯行を否認していまして、再審請求をこの20年間に2度起こし、いずれも再審拒否されて現在3度目の再審請求中でして、DNAの鑑定違いで今回は再審開始が予想されている所です。

この部落殺人事件の起こった日はこの村落の記念日に当たっていた様で、女性村は子供達と全員が京都に観光旅行に出かけていて、この男村から1キロ離れた女村の乙村には誰もおらず、その為に火災の発見もかなり遅れた様でした。

遺体の13人は全て男性でこの甲村の住人だということが既にDNA鑑定で判明しております。

ただ、鑑定によると、男達の死亡時間と火災発生時間との差が5時間程あることが証明されています。

女性達の証言では甲村には鼠が多いということで、鼠駆除剤が前より各所に置かれていたとのことでした。

なぜ、女性だけで村の記念日に旅行していたかに付いては、この村が発足当時からこの日は陰の力持ちである女性達を解放してあげる日だとして、毎年女性達と子供達だけで旅行するという慣習になっていた様でした。

鑑識から一つだけ興味深い情報が出されています。

鑑識が捜査して甲村から集めたDNAの標本は14人分あるそうで、今回の遺体と照合して残った一つのDNAは女性のものだそうですが、遺体は発見されていません。

乙村の女性達は誰も一度も甲村には行ったことが無いそうで、何時も男達が乙村に帰ってくる仕組みだそうで、甲村に女性のDNAが残るはずが無いと証言しています。

甲村の焼け残ったある家から牢屋みたいな場所が見つかりそこから女性のDNAが採取されているのです。

このDNAを持った女性の行方を探すことが事件の鍵となる様です。

以上があらましです。」

日本アルプス

「もう一つの冤罪事件の状況を教えて下さい。」

と遠藤次長が言った。

「はい、あの事件の時はまだ私はこの署にはいませんでしたので、古参の福本係長に話して頂きます。」

「はい、福本です。

当時は私はまだこの署に入って刑事課に回されて2年目の秋のことでした。

甲村から北に3キロ離れた隣村の峰里村の中学1年生の娘がキノコ狩に山に入った祖母を捜しに行ったまま行方不明になったのです。

5日後、谷川の流れの岩の間で無残な遺体になって、登山者によって発見されたのでした。

全裸体で首の骨が折られていたそうです。

暴行された痕跡はあったが、谷川の冷水に下半身がさらされていた為に体内からははっきりしたDNAは採取されていなかったと思います。

検察の訴訟理由はあくまでも状況証拠のみでした。

当時、被疑者が所持していた日産の小型ジープが谷川の近くで他の村人に見られていたことと、被疑者の手拭いが近所で見つけられていたことなどから任意同行を求められて、取り調べで白状して逮捕に至ったのです。

被疑者は一貫して無実を主張して、被疑者も近所でキノコ狩りをしていたことは認めたのですが、厳しい追及の取り調べに負けて白状した様です。」

「それだけで逮捕したのですか？」

「はい、その他に手拭いの件ですが、キノコ狩りのキノコを村に持って帰っていないという事実が分かり、本人はそのことには熊に出会って急いで逃げ出したので、その時キノコも手拭いも落として来たと言い訳をしております。

そして、甲村の住人が証人として呼ばれて、被疑者がその日、村に帰って来た時のことを、

『とても怯えていた、何か大変なことをして来た様だった。』

と裁判で言ったのです。」

「当時の被疑者の家庭状況は？」

「はい、確か若い妻と年老いた両親と弟と妹がいたと記憶しておりますが。」

「現在はその家族はどうしているのですか？」

「はい、確かこの村に居れなくなって一家でボリビアに移住したと聴いております。」

「そうですか、日本に居ないのですか。」

「それでは今のその村長は誰ですか？」

徳田課長が立って答えた。

「はい、今回死亡した男達の中の清村蔵治という男でした。」

「その村長も死体で発見されたのですか？」

「はい、そうです。

ただ、、、。」

「ただ、、、？」

「この清村蔵治の遺体だけは死後に付けられたと観察は言ってはいるのですが、無数の刺し傷があったのです。

刀傷と言われています。」

「他の遺体には無かったのですか？」

「はい、他の12人には傷は見つかっていません。

しかし、全員飲酒していたようです。」

「何の酒を飲んでいたか分かりませんか？」

「彼等は村で秘密裏にドブ酒を作っていたようですから、その酒だろうと鑑識は言っていました。

そして全員から鼠駆除剤のフエンプロパトリンが検出されています。

誰かがこのドブ酒に混入したに違いありません。

不明の女の可能性が強いですね。」

（つづく)

フアンタジー小説「ザ・ミディアム」第三章『不動の憤怒』P 2