天壇公園に到着して奥にある天壇に向かいながら、咲良が話しかけてきた。
「結菜、五島先生は貴女をミディと呼んでいるのね!
どうして?」
「あっ、僕訊いたよ。
遠藤次長が言っていた。
結菜は霊能力者だって!
霊能者のことは英語でミディアムというので、短縮してあだ名で『ミディ』と呼んでいるのだと。」
「え〜ぇ!
結菜は霊能者だったの?
だから、なんでも先に分かっていたんだ!
人が悪いわねえ!
早く教えてよ!」
「ごめん、別に自慢することでは無いから!
嫌いになった?」
「ううん!
私、その霊的なこと大好きだから!
とても興味があるの。
さっき、故宮であの九龍壁の龍と何かを話していたでしょう?」
「うん、ちょっと。」
「で、何て?」
「うん、あそこから出たいんだって!」
「へー、そんなこと言ったの!」
天壇に到着してひと回りして、案内人の説明を聞いていたら、ミディに通信が入った。
「この天壇は1420年、明の永楽帝が天に祈る為に造らせたもので、中国の三大宗教が皇帝の保護を受けてここで天に祈った所です。
三大宗教とは道教、儒教、仏教です。」
案内役の説明の途中で、またミディに通信があった。
『私の説いた教え等、1角の値打ちも無かった!』
ミディは五島のところ走って行ってその通信を伝えた。
「誰が言ったのか?尋ねてごらん。」
「はい、『老子』
と言われています。」
「道教の教えのことだな。
有名な宗教家でも、人霊界に行けば本当の神様に出会い、真のことを知って反省するんだね!
とても深い通信だな!
ハハハ、自分の教えが1角の値打ちも無かったとは、1角といえば日本円で僅か1円50銭余りだろうが!」
ホテルに帰って夕食までの間、今後の行動について協議することになった。
その間、咲良と耕作は買物に出かけた。
付き添いに王さんがお供をして行った。
「一応、今日の故宮の九龍壁の龍族から訊いた話をミディが説明して、事件の概要が観えて来たので、明日からは観光旅行の残りの予定である蘭州と青海湖観光を消化して香港に入るということに決まったのでした。
夕食の時間になりホテルの食堂に行くと、
咲良が青い顔をしてミディによって来て言った。
「結菜、いや、ミディ! 大変だったのよ!」
「どうしたの?」
「耕作君が暴漢に襲われてもう少しで連れて行かれるところだったの!」
と訴えた。
「何があったの?」
「普通にデパートで買物していたら、変な男達が急に耕作君を捕まえて連れて行こうとしたの!
それで私と王さんが大きな声を出して騒いだの。」
「そしたら、何処からか、数名の頑丈な男達が現れて耕作君を捕まえていた男達を組み伏せて手錠をはめて何処かに連れて行ったの!」
「それで耕作君は?」
「大丈夫だったけど、今警察署に呼ばれて、王さんと一緒に行っているの。」
「そうだったの!
良かったわ。」
「あの助けてくれた人達は何者なんだろう?」
「おそらく、中国政府の護衛官と思うわ!」
「えっ! 中国政府の護衛官?」
「そう、私達の今回のこの旅行は中国政府が保証しているの、だから、常に護衛官が護ってくれているのよ!」
「なんで?
そんな大それた観光旅行なの?」
「五島先生を始め皆さん、とても日本国にとっては大事な人達ばかりなのよ!」
「うわー、気安くものが言えないわね!
ミディひどいよ!
早くそんなこと教えておいてよ!」
「いいのよ!
わざと普通の観光旅行にしたんだから!」
そこに耕作が王さんに連れられて帰ってきた。
2人の顔を見るなり、
「ああ、怖ろしかった!」
「大丈夫だった?」
「大丈夫でした。
直ぐに警察官は帰って良いと言いました。
何か分かりませんが、党から指示があったみたいです。」
と王さんがニコニコしながら言った。
(つづく)