ムラジの船はが関門海峡を通過して、周防灘を通り、豊後水道を抜けて、太平洋を望む所の沖の島と足摺岬を回った所で風が強まり、波が高くなって来ました。
ムラジは3人の船頭達に左手の四国土佐湾を見失わないように、そして近付きすぎないように瀬に気を付けることを支持して西に進んだ。
高知の野見湾に回り込んだのは夜遅くだったが、しばらく、ここで風と波を避けて朝まで待機して台風をやり過ごそうと思ったのでした。

朝を迎えて、台風の風の吹き返しが少し気にはかかったが野見湾を出て太平洋側の高知沖を西に向かった。
そしてこの日は室戸岬の手前で停泊して夜を過ごした。
日の出と伴に室戸岬を回って北西に進路を取り、進んでいた時、突然大きな衝撃を受けて船が傾いたのでした。
とても大きな衝撃でした。
甲板上にいた3人の船頭はその勢いで船から海に放り出され、気を失って潮に流されて行ったのでした。
磯に乗り上げて大破した船の船底で気が付いたムラジは船が浸水しはじめたことを知り、急いで甲板上に出ろうとしたが、足の傷みに始めて気付いたのでした。
痛さを我慢して這いながら腕力だけで甲板上に出ると船頭達の姿はありませんでした。
甲板上に梱包して置かれていた、大事なクキからの預かり物は荷崩れも無く、置かれていました。
台風は去ってはいたが、船は大きなうねりで打ち寄せる波を受けて左右に大きく音を立てて揺れていたのです。
そして、その内に沈みかかった船は座礁していた岩礁を離れて波に流され始めました。
左足を骨折したムラジにはなすすべもありませんでした。
早い日本海流、黒潮に乗ってどんどん流されて紀伊半島のみなべの海岸に漂着したのでした。

  みなべの海岸

幸いなことに土着民に発見されて、救助されたのでした。
崩れかけた船の荷物は土着民が陸に上げてくれていました。
そして兵士がやって来て、ムラジを取り調べました。

「お前は何処から来たのか?」

「はい、私は九州倭国連合の阿曇族の族長のムラジと言います。
ここは大和国ではありませんか?」

「そうだ、大和国連合の紀伊の蝦夷族だ。
そして何処に行くつもりで来たのか?」

「はい大和国王オオクニ様にお会いしたいと思い来ました。」

「今はこの紀伊の長のヒクミ様は居られない。
東の討伐にお出掛けになられておられる。」

「そうですか、ヒクミ様の国ですか、どうかヨロズ様に私ムラジが来ていると伝えてくれませんか?」

ムラジは担架に乗せられてヨロズの館に運ばれたのでした。

「ムラジ!大丈夫ですか?
よう来ましたね。
今はヒクミ様は討伐の為に出掛けて居られるが、何か用があって来たのではありませんか?」

「クキ様から預かった大事な書き物を届けに来ました。
イワレ様に渡すようにということでしたが、イワレ様は亡くなられたと洩れ伺っておりますので、せめてもオオクニ天皇様かチル様に届けようと思い船で来たのですが、瀬戸内海はカネが海賊と戦争中なので、太平洋側を回った所、台風はにあい、この始末です。
船の荷物は届いておりますか?」

「はい、私が預かっております。
姉のチルは今は病で臥せておりますので、オオクニ様に届けようと思っております。
夫のヨロズが帰って来てからと、思っております。」

「良かった。ありがとうございます。」

「貴方はここで安心して足を治して帰られると良いでしょう。
ここの山の山窩を通じて、そのことは宗像大島には伝えておきましょう。
皆さん心配されて居られるかも知れませんね。」

「恐れ入ります。」

「クキ様はどうしておられますか?」

「はい2年前にニライカナイに行くと、言われて船出されたままです。
その後は連絡がありませんから判りかねております。」

「まあ!ニライカナイに行かれたのですか!」

ムラジは約半年近くこの紀伊の国のヨロズの所で静養して、弟のカネが迎えに来て宗像大島に無事到着、帰り付くことが出来たのでした。

                                                                               (つづく)