【登場人物】
沖矢昴 バーボン
【拾い主は責任をもって】
池になにか浮いている。近づいてみると、それは人形だった。拾い上げる。ずぶ濡れだ。その人形はバーボンそっくりだった。
「それで持って帰ってきたんです」
「燃やしましょう」
「ですが、人形には魂が宿るといいます。こんなにそっくりな人形。燃やしたりなんかしたら何が起きるやら」
「オカルトは信じないんです」
「では、切り刻んで捨てましょうか」
「待ってください!」
「おや、オカルトは信じないのでは?」
「物を粗末にするのはいけません。大切にしてください。沖矢さんが」
「なぜ、わたしが?」
「拾ったのは沖矢さんですよね」
【すり傷さえ見たくない】
「しかし、誰がつくったのでしょう」
「自分そっくりな人形が池に捨てられていたって、ちょっとショックですね」
「捨てたとは限りませんよ。もしかしたら持ち主が探しているかも知れません」
「人形がボクに似ているのか。それとも、ボクが人形に似ているのか」
「少しほつれていますね」
「きっと枝にでも引っ掛けたんでしょう。貸してください。縫います」
「あなたは元気な子なんですね」
コツンと人形をこずく。バーボンはテキパキとほころびを直す。針がフェルトに刺さり、見えなくなって、また出てくる。
後ろには糸を引き連れて。整列するように縫い目が並び、人形の傷口は癒えていく。最後にたま結びをして糸を噛み切った。
みるとバーボンの指にも傷がある。また無茶をしたのか。救急セットからバンソウコウを取り出して彼に貼ろうとした。
「動かないでください」
「すみません、驚いて」
「バンソウコウを貼られるのが?」
「こんなの軽症ですよ」
「軽症だからバンソウコウで済んだんです。これが包帯にならないように、くれぐれも気をつけてくださいね」
「包帯も巻いてくれますか?」
バーボンは無邪気に笑う。わたしは溜め息をついた。わざと怪我でもされたらたまったものじゃない。そっと首を横にふる。
【さようなら泡の人形よ】
「この人形は差し上げます」
「いいんですか?」
「わたしが持っていても、きっと幸せにはなれない。大切にしてもらえるところに居たほうが、この子のためです」
ほころびさえ直してやれない。バーボンは人形を見つめて思案している。何を思っているのだろう。自分そっくりな写し身に。
ギュッと人形を抱きしめる。その瞬間、人形は泡になった。まるで人魚姫みたいに。またたく間に消えて無くなってしまった。
「きっと家に帰ったのでしょうね」
にほんブログ村