魂の退社 会社を辞めるということ。 (幻冬舎文庫) [ 稲垣えみ子 ]
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朝日新聞の元編集委員であり、現在はフリーランスとして執筆や講演活動を行っておられる稲垣えみ子さん。退職を機に家電をほぼ手放し、冷蔵庫もエアコンもない暮らしへと舵を切られたことで知られています。
大手メディアで活躍し続けた方が、あえて「持たない生活」に身を投じたというその経歴には、大きな転換点と覚悟があります。
稲垣さんは約30年間勤めた朝日新聞社を2016年に早期退職されました。
その後はミニマルで質素な暮らしを実践し、光熱費を極力抑え、消費の速度を落とし、なるべく自然のリズムに沿って暮らす生活スタイルを選択されました。便利さや効率を追い求めていた働き盛りの頃とは真逆の方向です。
しかし、そこで得られたのは“不便の豊かさ”でした。
冷蔵庫がないからこそ毎日の買い物が小さな冒険に変わり、エアコンがない夏は自然に合わせて身体が動き、料理や掃除も必要なだけ、必要なときにやるというシンプルさが息づいています。
稲垣さんの考え方
稲垣さんは「キラキラした成功」よりも、「主体性を取り戻すこと」を何より大切にされています。
大量消費社会のなかで無意識に背負ってしまった“こうあるべき”という重荷をおろし、自分の体と心に正直に、足るを知りながら暮らしていく姿勢が中心にあります。
便利さを手放すことは、むしろ自分の力で生きる感覚を取り戻すこと。
何かが壊れたら直す、できるだけ買わない、生きるスピードを落とす、そして「自分自身の機嫌を誰かに預けずにいる」ーーこうした価値観が、彼女の随筆や講演から静かに伝わってきます。
稲垣さんの言葉は、押しつけがましくなく、達成すべき目標の提示でもありません。
ただ、そこにあるのは「私はこう生きています。その結果とても楽になりました」という穏やかな報告だけです。
そして聞き手の側は自然と、立ち止まった自分の暮らしの中にほんの少し余白を作りたくなるのです。
おわりに
日常に追われていると、つい自分の生活や価値観が“これしかない”と硬直してしまうものです。
そんなとき、稲垣えみ子さんのように静かに、自立して、自分で選んだ道を歩む人の背中を見ることで、心に風が通るような感覚を覚えます。
我々は自立した1人の人生の先輩を知ることで慰められ勇気付けられている。