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novels by naecha

「明治東亰恋伽」の小説を書いています
初心者ですが、温かい目で見てください


ある日の早朝、太陽も顔を出し始めたくらいの時間に目が覚めた芽衣は危うく悲鳴を上げそうになった
芽衣がいたのは春草の部屋であった。なぜ自分が春草の部屋で寝ていたのか分からないが、しかし、芽衣が最も驚いたのは別のことであった
(なななんで、私たち、は、裸……)
無論2人は恋仲であるから、何があったのかは想像がつくし、そのことに関しては問題ない
では何が問題なのかと言うと、昨日の記憶があやふやなのだ

まさか今目の前で眠っている春草を起こして聞くわけにもいかず。自分の部屋に戻って頭を冷やそうにも、春草の白い腕が逃がさないとばかりに芽衣をしっかりと抱いているため動けない

芽衣は春草の腕の中で昨日の出来事を振り返ざるを得なかった





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「おや、子リスちゃん。まだ起きていたのかい」
昨夜、鴎外が帰って来たとき芽衣はサンルームで本を読んでいた。声をかけられて初めて時計を見ると、時計の針は11時をさしていた
「ちょうど良かった。実は、西洋の菓子を貰ったのだが、子リスちゃんも一つ食べるかい?」
「え、良いんですか?」
(あ、でも夜にお菓子を食べたらさすがに太るかな)
と思ったが、鴎外が取り出した箱の中身を見てそんな女の子らしい考えは一気に吹き飛んだ
「チョコレート!」
箱の中で茶色の光沢を纏ったそれはカカオの甘い匂いを漂わせている
「鴎外さん、ありがとうございます」
久しぶりに食べたチョコレートは口に入れるとすぐに溶けてしまったが、それでも芽衣は満足だった。甘いものを食べたせいか、気分がとても良い

「そうだ、これ春草さんにあげても良いですか」
今頃自室で絵を描いているであろう恋人に。きっと疲れもとれることだろう
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、子リスちゃん」
小皿にチョコレートを1つ取り分けた芽衣はパタパタとサンルームをあとにした





この時、誰も気づいていなかった
チョコレートにブランデーが使われていることに
芽衣があまりにも酒に弱いことに





「春草さん、入ってもいいですか」
「ああ」
芽衣が入ってきたとき、春草は画材を片付けていた
「鴎外さんにチョコレートもらったんです。春草さんも食べますか~?」
ヨロヨロと覚束ない足取りでこちらにくる芽衣に不安を覚えたちょうどその時、ガタンっと音がした。芽衣が机にぶつかって転んでしまったのだった
「…何やってるの」
ため息をつきながら芽衣の目の前にしゃがみ込むと、へらへらと笑う芽衣の顔が目に映った
「君、大丈夫?」
「大丈夫ですよ~」
(いや、君の頭の方が心配なんだけど)
明らかにいつもと違う芽衣の様子に春草の中で不安が募っていく。そんな春草の不安など全く知らない芽衣は笑いながらチョコレートを差し出す
「はい、あ~ん」
「いいよ、自分で食べるから」
「やーです。私が食べさせてあげるんです」
「あ~ん」と言いつつ春草の口にチョコレートを当てる芽衣。いつにもまして強情な芽衣に、春草は仕方なく口を開けた。芽衣が持っていたことで少し溶けてしまっていたが、味は悪くない。そして春草は甘ったるい味の中でほのかに香る洋酒の風味に気づいた
「このちょこれいと……お酒入ってる?」
「そうなんですかぁ?私、食べたときぜーんぜん気づきませんでした~」
「…………………………」
陽気に笑う芽衣を春草はじっと見つめた。どうやらこの子は酔ってるらしい。面倒なことになる前にさっさと寝かせようと決めた

「ごちそうさま。ほら、部屋まで送るから」
立ち上がって手を差し出す春草に、芽衣はぶんぶんと首を振った
「春草さんと一緒にいたいれす~」
次第に酒が回ってきたらしく、呂律が回らなくなっている
「駄目。君酔ってるんだから早く寝ないと‥」
「そうら!」
春草の言葉を遮っていきなり立ち上がった芽衣。手をつないできたから大人しく部屋に戻るのかと思いきや、ずんずんとベッドに向かう
「ちょっと!」
「ここで、春草しゃんと一緒に寝まーす。ほりゃあ、春草しゃんも早くぅ~」
唖然とする春草をよそに、芽衣はごろーんとベッドに転がった。「早く早く」と急かしながら足をバタバタとさせるものだから、寝間着がめくれて足がかなり上の方まで露わになっている。酒のせいで潤んだ目に見つめられ、春草の理性が一瞬揺らぎそうになった
「……もう一度言うけど、君、自分の部屋に」
「やーら!春草しゃんと寝るんれす~」
「はぁ……今の君っていつもより図々しくて面倒くさ……うわっ」
芽衣が春草の袖を思いっきり引っ張ったのだ。バランスを崩した春草はベッドの上-つまり、芽衣の上に倒れ込んだ。芽衣の顔の側に手を突き寸前のところで衝突は免れたものの、2人の間にできた空間もすぐに芽衣によって埋められた
「っ、………芽衣」
「えへへ‥」
唇に余韻が残る中、次に芽衣が狙ったのは首筋だった。柔らかい感触は一瞬で、チリッと痛みが走る
「ふふふ………」
満足そうな笑みをこぼし、2個目、3個目、と付けていく
これにはさすがに春草も堪えた。ふだんなら決してしないようなことをされて、我慢も限界に近い

「あのさ、」
無理やり引き剥がすと、彼女は何がなんだか分からない、とでも言いたげに目を丸くしていた
「君、煽ってるわけ?」
苛立ち紛れの声で尋ねると、芽衣は瞬きを1つして答えた
「…………かも、しれませんね」
その答えを聞いて、春草は我慢することを止めた
「はあぁぁぁぁ……君ってとんだ悪女だね」
「そうれすかぁ?」
「まあ、いいよ。その代わり、」
芽衣の耳元に顔を寄せ、低い声で囁く
「後で文句言っても聞かないからね」
芽衣が何か言う前に、春草はその唇を封じたのだった





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以上、である

要約すると、『酒に酔った芽衣が春草を煽った』というだけのことであるが、かなりの大事件である

(マズいマズいマズいマズいマズい…)
春草が起きたが最後、手酷くお仕置きをされるに違いない。そう思った芽衣は、何とかして春草の腕から抜け出そうと、必死に身をよじったのだが



「…何してるの」

春草の声に、芽衣は固まった。恐る恐る視線を上げると、眠たげな視線とぶつかった
「お、おはよう、ございます……」
「ん、おはよう」
春草はまだ眠いのか、目を瞬かせている
「ええと、その、昨日は……すみませんでした」
春草の肌を見ると、首筋だけでなく鎖骨や肩にまで紅い花が点々と咲いている。言うまでもなく、芽衣が付けたものであるが。それらが歴とした証拠として残っているため、言い訳するのは諦めて素直に謝ることにした
いったいどんな嫌みを言われるのか、と芽衣は内心怯えていたのだが…
「うん」
たった一言で片付けられたため、逆に拍子抜けした

ほっとしたのも束の間、先程よりも強い力で抱きしめられ、芽衣は焦った
「え、あの春草さん?」
「眠い」
「じゃあ、私がいたら邪魔なんじゃ…」
「寒い。暖めて」
ぎゅっと腕に力を込められ、2人の距離が近くなる。確かにこうしていたらお互いの体温が直に感じられて暖かいのだが……とても恥ずかしい
「あと1時間、だけ‥」
そう言って春草は目を閉じてしまった

(うぅ……やっぱり恥ずかしい………
でも、お仕置きにしては軽い方だよね、良かった~)
とポジティブに考えた芽衣は自分も眠ろうとしたのだが



「芽衣」
掠れた声で名前を呼ばれ、顔を上げるとうっすらと目を開けた春草がこちらを見ていた
「仕返しなら後でたくさんしてあげるから」
「!!!!!」
意地悪そうに笑った後、春草は今度こそ眠ってしまったらしく、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた

その腕の中でこの先に待ち受けるお仕置きのことを戦々恐々と考える芽衣は一睡もできなかった