* レース鳩編の登場人物:僕・渡辺勝一(福島県いわき市出身)、月刊愛鳩ジャーナル編集長:岩橋信明(福島県福島市出身)、編集部員:穂田安彦(長崎県長崎市出身)、ワタナベくん(茨城県古河市出身)、砂田さん(出身地不明)、高田くん(熊本県熊本市出身)、吉田くん(山口県下関市出身)石原社長(東京都世田谷区出身)、戒名寺さん(鹿児島県鹿児島市出身)、 胸本さん(女子大生 事務アルバイト、東京都練馬区出身)、岡村くん(池袋Sデパート画材売り場勤務、鹿児島県鹿児島市出身)、宮本くん(岡村の友人、雑司ヶ谷でコンビニ勤務、静岡県浜松市出身)、みゆきちゃん(女子大生、宮本くんのコンビニ仲間、東京都豊島区出身 )、ほくろ馬鹿(池袋Sデパート社員、東京都中野区出身)...。
 
 「ワタナベくん、何やってんのよぉ!」いきなり編集長の岩橋がワタナベくんを怒鳴りつけた。ワタナベくんは出社してもほとんど窓際で居眠りしていることが多い。この日も窓際にある自分の席でさんさんと降り注ぐ春の陽を浴びて気持ち良さそうに居眠りをしていた。ちなみに僕もワタナベであるが、ワタナベくんとは“なべ”の字が違う。ま、どうでもいいことだけどね。

 いきなり怒鳴られたワタナベくんは、目を覚ますと、がばっと立ち上がって、水浴びした犬のように巨体をぶるるっと身震いさせた。そして、さも「やむなく疲れて寝ちゃった」みたいな顔で、その場を取り繕うとした。

 「は!ぼぼぼ僕は一体どうしたんでしょうかあ?」色白の顔を茹で蛸の様に真っ赤に染めて叫んだ。瞬間的に仕事で疲れたふりをしても鬼編集長岩橋には通じない。なんせワタナベくんはやる事がない。かわいそうなようだが、与えられた仕事を支持通りしないので岩橋はワタナベくんにあまり仕事をさせないのだ。ま、いずれは首にする気でいるのだった。

 僕と穂田が「愛鳩ジャーナルに戻ってくれ」って岩橋に呼ばれたのも、実はこのワタナベくんと砂田さんって編集長代理を首にするつもりだったからだ。ま、この話は以前にも触れたが・・・。で、この時点には砂田さんは少し前に退社してしまっていた。かばってくれる砂田さんがいなくなったことで、残ったワタナベくんは肩身の狭い思いをしていたに違いない。ちょっとかわいそうだったね。

 「あのねえ...毎日、早く帰ってるんだから、そんなに疲れる訳ないじゃないのおお!!毎日会社来て寝てばっかいるから疲れるんだよ。俺なんか昨日も寝てないんだよ...君は禿げてるけど、まだ若いんだしさ、疲れた芝居しても駄目じゃないのお!」岩橋は白のスリムジーンズをばたばたと鳴らして地団駄踏んで、もうカンカンである。ちなみに岩橋が昨日寝てないっていうのは、池袋で飲んだくれていたせいだ。別に仕事で眠っていないのではないのだ。でも、遊んでもこうやって会社に出てきてるんだから岩橋は精神的にも肉体的にも立派である。

 慌ててワタナベくんは作戦を変えた。逆切れ作戦である。

 「ぼ、ぼぼぼ僕がなにかしたんでしょうかあ!」と言うなり、どどどどどっと岩橋に向かって小走りに向かっていく。まるで突進するイノブタのようだ・・・見たことないけどね。ワタナベくんのその迫力に圧倒されたのか岩橋は「わ、わあああっ!」って叫んで立ち上がろうとしたが、後方は壁なので背中を思い切り壁にぶつけてしまった。「いててて・・・っ!い、痛いんじゃないのお...」

  「あ、だだ・・・だ大丈夫でしょうかあ?」ワタナベくんは「にやり」とほくそ笑みながら倒れそうになる華奢な岩橋をささえた...というか押さえ込んだ。

  「くく・・・痛いんじゃないのよおお!!!もういいからあっち行きなさい!!!」背中をおさえながら岩橋は椅子に座りなおして次のように言った。

 「あのね、みんな。今日は早めに仕事を終えて、池袋に飲みに行くんじゃないの・・・打ち上げじゃないのおお!!!」

 「げ、またかよ・・・毎日打ち上げじゃんかなあ・・・ふう・・・」僕は呆れてため息をついた。