ことわざ漫談噺 | 源のブログ

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源のブログへようこそ。笑い話を書くことが好きです。ただ今「ことわざ漫談小話」等の笑い話しを創作発表しています。それに季節ごとの俳句や川柳も投稿しています。最近は「戯れ言」も書いています。作品名は画面右下側フリースペースをご覧ください。

ことわざ漫談噺(まんだんばなし)

ことわざ落し話1~30

5「鬼も十八番茶も出花」―前編―

 

 「あら!ちょいとあんた。あの娘ったら、見ないうちに随分と綺麗になったねぇ」と、まぁ、こんなことよく聞きますね。お隣の、やんちゃな娘が近頃綺麗とささやかれたり、あら、彼氏でもできたかね。本当に綺麗になった、などと、驚きに似た声が聞えたりするものです。綺麗だ、ああ可愛いと、ささやかれているくらいですから、綺麗になることが特別悪いことのように、また聞こえたりもするものです。

 

これなどは、どんな娘でも年頃になりますと、色気が出てきて綺麗になったり、或いは可愛いと、みえたりするものです。近頃の娘は色気より食い気だ、などと言ったところで、やはり色気の方が食い気に勝るものです。しかし、どちらも本能でございますので、女性の一生はどちらに軍配があがるか本人の選択に任されているということでしょうね。

 

それでは誠にばかばかしいお話で恐縮ですが、つまらぬ一席とお叱りは覚悟してのお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。父親(お父さん)とその娘(明子)の一席でございます。酔っ払いお父さんと、娘の、鬼ごっこの巻きでございます。

 

「おーい、今帰ったぞう」

「おかえりなさい」

「おお、明子か」

「あ、お父さん。また、酔っているの?」

「またなどは酔ってない。心が良い気分なのだ。おい、明子。お風呂はどうした?」

「何よ、帰ってくるなり、お風呂なんて」

「良いじゃないか、帰ってくるなりお風呂の何処がわるい。お前がそこに居るから聞くのだ。それじゃ、お母さんは何処だ?」

「お母さん?」

「そうだよ。お母さんだ」

「お母さんは会合だって」

「え!会合?またか」

「会合にはねぇ、またも、あしたもないですのよ、お父さん」

「今朝は何も言っていなかったじゃないか。何が会合だ。折角早く帰ってくりゃ、夕飯もおあずけか。じゃなぁ、お風呂にする、お風呂だ」

「この時間で、何が早いお帰りですか。しかも、飲んでいるくせに。お風呂、お風呂と、酔っ払いがお湯に飛び込むと、出来上がってしまうよ」

「何ができあがるのだ?ええ、会社じゃ未熟者扱いだからお父さんはこうして課長をお誘いしてお酒をのんでくるのだ。未熟者が出来上がれば、こりゃめでたいねぇ」

「ああ、お父さんはバカを酒で洗ってきたのだ?」

「バカを酒で洗って何が悪い。とんでもねぇバカだから、ちょっとの酒じゃバカがおちないのだ。それで今度は湯に入ってバカを磨くのだ」

「そんなオオバカは湯に入った途端、死ぬわよ」

「古池や蛙飛び込む水の音。ああ、良いねぇ。お父さんは蛙のようには飛び込まない。足からゆっくりはいるのだ。誰が好きな湯の中で死ぬ。湯のなかでお父さんは仕事の疲れをとり、そして若々しく生き返るのだ。なぁ、酒は百薬の長で、湯は心を癒す天国なのだ。なぁ、そんな風呂は入れるか?おい、明子」

「何よ、急に、そんな大きな声を出し、威張くさって」

「男が威張って、どこが悪い?」

「男がうちに帰るなり威張るのを内弁慶というの」

「何が内弁慶だ。ええ、蚊が鳴くようではなぁ、じめじめとした貧乏屋敷と同じなのだ。それじゃ困るからなぁ、お父さんはウソでも良いから、大金が転がり込んでビックリしたように大声を出すのだ」

「ああ、やっぱりお父さんは未熟者なのだ。そうやって、大の男が、家に帰ってくるなり威張るのは、会社じゃ威張れないからだ」  

「ああ、会社じゃ威張れない。確かに、なぁ、その通りだ」

「だったら、お父さんは会社で威張ったらどうなの?」

「それが、なぁ、なかなかとは威張れないのだ。順番を守らない奴がいるのでなぁ、お父さんは、それで、ちょっと困っているのだ」

「それじゃねぇ、威張れるように頑張ってちょうだい、ねぇ、お父さん」

「ああ、それに比べ、この家の者は、みんなお父さんの家来だから、つい声も大きくなって気もでかくなるのだ。だから、気持ちが良いのだ」

「それじゃ、娘の私もお父さんの家来ですか?」

「そりゃ当たり前だ。家来たる娘は父には心配かけないことが大事なのだ、なぁ」

「今日も酔っているの?良いわねぇ、男って」

「何が良い。飲むのはお父さんの仕事だ。男はなぁ、仕事を忘れるようでは、もう、お仕舞いだ。仕事が好きだから飲むのだ」

「好きな時に好きなように飲めて。お父さんは血圧が高いのだから、お母さんに、あまり心配かけないほうがいいわよ」

「何?お父さんは血圧が心配だとう?」

「そうよ。ぶっ倒れて、公園の噴水のように頭の中で血が吹き出るわよ」

「何を言うか。心配しているのは、お父さんのほうだ。こうしていてもなぁ、娘の明子が心配で、仕事が手につかないのだ」

「え?私が心配で、仕事が手につかない。そりゃおかしいですね!」

「何が、おかしい。父親は娘を心配するのが、あたりまえだ」

「どうして、私が心配なのよ?」

「私という、鬼も十八、番茶も出花、と、いうことだ。分かるか、このお父さんの心配が、お前には分からないか?」

「何よ、それは?」

「十八の、鬼娘のことだ」

「え!鬼娘?」

「ああ、鬼だ、鬼の娘だ」

「何よ!それ、私を馬鹿にして言う言葉!」

「馬鹿どころか、娘の明子が、綺麗になるとお父さんは心配なのだ」

「ええ!なによ・・それは?」

「鶏がノドに餌を痞えたような声をだすな」

「私は鶏じゃありません」

「誰が鶏といった。さっきも言ったように、不可解なお前の様子を見ると会社に行っても、さっぱり仕事も手に付かないのだ」

「イヤナ男父さん」

「もっといけないのは、お前と同じ年頃の娘が、さまにならぬ男と一緒に街を歩いているところを見るようなものなら、後ろからその男に近づいて、その男の襟をつかみどやしてやりたくなるのだよ」

「え、どやす?」

 

さぁ、この続きは中編で、このあと2時間以内に投稿します。