《ブログ小説》癒し、天職でした! シーズン1「開店1周年前日」29 | 中山隆嗣の「活殺自在」

中山隆嗣の「活殺自在」

武道と癒しを中心に、生き方、日々のことを綴ります。

 家に着き、私たちはすぐに夕食の準備にかかった。

 

 こういう時の手順は、手間がかかりそうなもので、しかも多少冷めても問題のないメニューから作る。今回の場合で言えばポテトサラダになるが、これは美津子が決めたメニューだし、得意料理でもある。私たちが居酒屋をやっていた時には美津子の担当だった。

 

 

 普通の家の台所なので、2人で作るには互いの動線を意識しなければならない。

 

 ポテトサラダの場合、まずジャガイモをゆでることが必要だが、レンジを活用することが可能だ。美津子は慣れた手つきで皿にジャガイモを入れ、ラップして加熱した。その間、他の野菜を処理して皿に盛りつけている。

 

 私は自分の好きな豚の角煮の準備をしていた。やはり、自分の好きなメニューだからか、どうしても自分で作りたくなる。

 

 豚の角煮は手間がかかる料理だ。まず、肉の下茹でが必要で、ここで灰汁抜きを行なう。このひと手間の有無で味が変わるのだ。私はそこから準備した。肉を入れたお湯から小さな泡が出てきた時から少し時間が経った時、串で肉を刺してみる。その時の感触で火の通り具合を確認するのだが、中までの感触は均一だった。そのあと鍋から取り出し、少し熱を冷ました。

 

 その間、別の鍋に水、醤油、みりん、砂糖、出汁を加え、味を調える。後で煮詰めることを考慮し、水は少し多めにしている。

 

 鍋に下茹でをした肉を投入し、火にかける。火の様子と煮込み具合を見ながらある程度落ち着いたら落し蓋をして、火を弱めてしばらくそのままにする。時折様子を見るが、ここでは焦げないような火加減が大切で、やはりここも昔の経験が活きる。

 

 私のほうのメニュー作りが進む中、美津子のポテトサラダ作りも進んでいる。

 

 時間を見てジャガイモが崩せると判断した時レンジから取り出し、皮をむいて適度な塊を残す程度につぶしている。ポテトサラダはその加減が大切で、そこにほんのちょっと辛子を混ぜたマヨネーズが絡み、塩やコショーなどで味を調える。

 

 ポテトサラダに加えるものとして薄くスライスして塩揉みをしたキュウリ、ハムを加えるが、康典はそこにゆで卵が入っているのが好みなので、下準備の際に作っていたゆで卵をつぶして加えた。

 

 家庭の台所だが、ガス台は3基あるので、同時に加熱は可能だ。私のメニューはしばらくコトコトと煮込むことになるが、1台ふさがっていても他の料理は可能だ。

 

 私は火の番をしている状態だが、美津子のほうはポテトサラダも完成し、盛り付けもきれいにできた。

 

 続いて唐揚げの準備に入るが、味付けは美津子のほうが上手なので、この部分はすべて任せた。一般的な唐揚げ粉にわずかにショウガ醤油を加えて味や香りを変化させるのだが、その加減が絶妙で、康典が好きな料理になる。

 

 その間、豚の角煮のほうはほとんどできた状態になったので、焦げないようにさらに火を弱め、美津子に時々見てもらうようにした。

 

 そして私は刺身の盛り付けをしたり、テーブルの準備などを行なうことにした。

 

 壁の時計を見ると6時を少し回っていた。

 

 その時、玄関の扉が開いた音がした。

 

「ただいま」

 

 康典が帰宅したのだ。

 

「お帰り」

 

 私たちはほぼ同時に言った。

 

「美味しそうな匂いだね。今日、何かあったの?」

 

 康典が不思議そうな顔で尋ねた。

 

「今日は俺たちが整体院を開いて1周年の1日前なんだ。だから今日はみんなが好きなものを作っていろいろ話せればと思っているんだ」

 

 私が言った。

 

「そう、じゃあ、着替えてから手伝うね」

 

 康典が言った。

 

「いや、もうほとんど終わりだから、少しゆっくりしていなさい。できたら呼ぶから」

 

 私がそう言うと、康典は自分の部屋に行った。