土曜日の稽古の話です。稽古前のアドバイスの後、全員一緒に本来のメニューということでスタートしました。
このところ、基本は上半身関係の技が多かったため、この日は「蹴り」にしました。レベルの差がありますので、その種類は限定しましたが、武技としての意識を明確にし、タイトルにあるように膝を狙っての「関節蹴り(かんせつげり)」をイメージしてもらいました。
今、空手を稽古している人の場合、下肢を蹴るという場合、「下段回し蹴り(げだんまわしげり)」をイメージする人が多いと思いますが、私が入門した頃に下肢を蹴る技と言えば、前述のように膝を狙ったもので、その様子を左のイラストに示してあります。
その時の具体的な技というと、ご覧の通り「足刀横蹴り(そくとうよこげり)」を用い、相手の側方から攻撃する、というパターンになります。運足・体捌きを要求される技であり、「下段回し蹴り」のように正面から蹴り合うような技ではありません。
もっとも、「下段回し蹴り」の場合も、相手が横を向いた時に放つ場合もありますので、必ずしも正面からだけではありませんが、最近の一般的な用法を見ると前述のような感じになっています。
しかし、イラストに示した「足刀横蹴り」の場合だけでなく、「前蹴り(まえげり)」のように正面に対して蹴る技も膝を攻撃する場合があります。正確なコントロールができれば、膝に対して強力なダメージを与えるに足る武技になります。
上に膝関節の様子を示しましたが、武技としてしっかりイメージしようという場合、きちんとした構造を理解しておく必要があります。
自分の経験、あるいは実際に動かしてみるだけでも膝関節の動きについては分かりますが、いつもこのブログでお話ししているのは武技と身体の仕組みの関係を理解する大切さです。武技そのものを見た場合、効果的な人体破壊を目的とします。武道哲学云々のことでなく、武術として体系化されている技法を純粋に見た場合の話ですが、だからこそその上位概念はとか、戦いの次にあるものは、といった思想につながっていきます。その高みに到達した人が「達人」と呼ばれることになりますが、そこに至る前段階では純粋に武技について探求する必要があります。
だからこそ、どうすれば無用なダメージを与えずに済むか、という余裕にもつながることになり、それが武術として要求されるものと理解しています。そこから人体の構造を知り、まさしく「活殺自在」の境地を意識する必要性を考えているわけですが、上のイラストもその一環となります。
さて、関節蹴りの時に意識しなければならないのは、膝関節の可動域です。特に伸展時の角度が大切ですが、これは一直線が限界で、角度的には0度になります。また、側方へは関節の遊び程度の動きとなり、だからこそ相手の横に入り込んで「足刀横蹴り」による「関節蹴り」が強力な武技になるのです。
そのように関節の可動域以上に動かす意識で負荷をかけることが武技となるわけですが、そうなると、冒頭のイラストのような場合だけでない技が出てくることが理解できると思います。前述のように、伸展について0度ということを考えると、さらに伸展させる方向から負荷をかけると膝関節へのダメージになることは明白であり、これが正面から蹴る時の基本イメージになります。
その場合、前述の「前蹴り」、あるいは正面方向に蹴り込む「足刀横蹴り」のいずれも膝関節の伸展方向に対する「関節蹴り」として行なうことができます。そこで必要な意識は膝関節のどの部位を狙うかということですが、膝蓋骨の上縁になります。
蹴り込む角度も大切で、なるべく膝関節に対して直角になるようにします。そのため、構えている時のように膝が屈曲している場合よりも、移動時に膝が伸びているような時が「蹴り」を放つチャンスになります。このような技を出すタイミングを計る能力も「見えない技」の一つになりますが、ここは組手で養うことが必要になります。
さて、これまでの話を意識した上で実際の稽古に入りますが、移動稽古の形式でまず「「下段前蹴り(げだんまえげり)」を行ないました。
あいにく、「下段前蹴り」のイラストがなかったので中段を蹴っている様子をアップしますが、イメージとしてご覧ください。
今回の稽古では、正確に膝蓋骨の上縁付近を蹴っているかというコントロールの点に注目しました。しかし、この点が難しいようで、正確に蹴っている人は少なく、下段だか中段だか分からない位置になっている人が大半です。このような状態では、急所の知識はあってもそれを活かせないことになり、技のコントロールも「見えない技」として武術の技としては必要な要素であることを再確認してもらいました。
この日は「足刀横蹴り」も行ないました。「前蹴り」同様、移動稽古として行ない、蹴る位置も当然下段です(「前蹴り」の場合同様、イラストでは中段になっていますが、実際には下段を蹴ってもらいました)。相手が正面に位置することを前提に蹴るわけですが、「蹴り」の内容からどうしても身体全体の状態は横を向きます。
この場合、身体操作の意識が重要で、「正整立ち(せいさんだち)」から行なう為、軸足の処理をきちんとしなければなりません。それは蹴る際、引く際共に要求されることになり、稽古ではその点に留意してもらいました。
もちろん、「蹴り」のコントロールの意識はそのままありますので、「前蹴り」よりも注意すべきポイントが増え、その分、難度がアップしています。そのため、全体的に見ると正しく蹴るためにはさらなる稽古を要することが改めて認識されることになりましたが、それは稽古生も同様だと思います。単に数をこなす意識だけでは分かりにくいことですが、一つ一つテーマを明確にし、その前提で稽古した時、要求通りになっているかどうかを自身で確認してもらえれば、少しずつレベルアップしていけるものと信じています。
なお、この移動稽古は単独のみならず、ペアを組み、当たらない間合いを意識した上で相手の膝関節を狙う稽古も行ないました。実際に相手がいるとターゲットの捕捉の意識も増したようで、少し変化しましたが、空稽古でもコントロールできるようになってもらいたいものです。
稽古はこの後も続きましたが、その話は後日にしたいと思います。
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