9月10日、「ゼロの会」による毎年一度の福島第一原発視察に参加しました。構内は全体的にマスクなど比較的簡単な防護服で作業や視察ができるようになってきています。しかし、事故を起こした原発の廃炉に関しては見通しは不透明です。

 

東電の計画では1・2・3号機から溶けた核燃料のデブリを取り出し、最終的には格納容器を含めて解体し、更地に戻す計画です。しかしきわめて強い放射線量の燃料デブリの取り出しは簡単ではありません。2号機の圧力容器の下のデブリが飛び散っている付近の放射線量を聞いたところ「72シーベルト」という返答でした。これは人間が近づけば短時間で死亡するレベルです。

 

東電の説明では燃料デブリの取り出しには格納容器を水で満たして行う「冠水工法」と水を満たさずに行う「気中工法」のいずれかの方法を考えているということです。しかしいずれの方法でも大きな問題があります。冠水工法では格納容器に損傷があるため強度的に格納容器全体を冠水させることがむつかしいという問題が一つです。他方気中工法では水による放射線の遮断ができないため、極めて強い放射線量の下での作業が必要となるという問題です。そのためにロボットの開発が進められています。

 

実は9月10日の視察では第一原発視察の後、デブリの状況を把握し、将来デブリの除去にも使うためのロボットの開発にあたっている、楢葉遠隔技術開発センターも訪れました。階段を登れるロボットなど高専の学生がコンテストで競っていることも聞きました。そこで私は遠隔技術開発センターの幹部に極めて高い放射線量下でも正常に動くロボットの開発を進めているのかを聞きました。しかし現在のところこのセンターでは高い放射線量下での実験は行っていないという答えでした。高い放射線量下では半導体の急激な劣化などで電子機器が故障する例が多いので聞いてみたのです。

 

私はドイツで原子炉の通常の廃炉作業を視察したことがあります。圧力容器を冠水させ、放射線量を抑えながらマジックハンドなど遠隔操作で、高い放射線を発している被爆した部材を切り取り、容器に入れて取り出す作業です。長い時間をかけての作業になります。こうした作業を核燃料デブリが飛び散っている気中で進めることができるのか。極めて疑問です。

 

東電は廃炉完了までの期間を30~40年と計画しています。しかし、専門家の中には事故を起こした原子炉は長期にわたって遮蔽しておくしかないという人もいます。事実事故を起こしたチェルノブイリ原発は事故から30年が経過していますが廃炉作業は進んでいません。石棺の上に巨大な金属製のシールドをかぶせ、今後さらに長期にわたって放射線量が下がるのを待つそうです。

 

事故を起こした原子炉の廃炉がいかにむつかしいかを十分に理解した上で計画を立てる必要があります。