前回に引き続き歌誌「冬雷」7月号の中で、私なりに特に心に残った
歌を抜粋してみました。鑑賞・評などと大それたものでは無く
私なりに選ばせていただいた理由を少々記させていただきます。
(☆新仮名遣い希望者)
宍道湖の水面の反す街の灯に映るあかりと映らぬとあり
東京 稲 田 正 康
島根県松江市と出雲市にまたがる宍道湖。
シジミの産地としても有名だ。
その湖の水面に映し出される街の夜のともし火。
作者はその色調と明るさによって映るあかりと映らぬ
あかりを発見した。
下句「映るあかりと映らぬとあり」には、その発見への感動。
そしてその発見まで、永く湖面の景と対峙した様子が窺える。
藤蔓に枝を貸したる櫨の木のけふ藤色となりて揺れをり
熊本 古 嶋 せい子
藤蔓が巻き付いた櫨の木。
そしてその藤蔓にようやく花が咲き、風に揺れていた。
巻き付いた藤蔓を「藤蔓に枝を貸したる」との洒脱な表現と
藤の開花を示す「藤色となりての」軽妙な描写。
それに結句「揺れをり」で、一首の中に動きまで感じさせ
作者の力量を思わせる内容歌に思われた。
散りて咲きまた散り敷ける雪やなぎ足の運びに気遣ふ出入り
兵庫 正法地 清 美
散っては咲き、また散っては咲く雪やなぎの花。
その細かな花の散り敷かれた玄関先の出入りに
作者は足を滑らせない様に気遣い歩くという。
まるで冬の降雪の後のような足元の気遣い。
しかしながら、その旺盛な雪やなぎの花の咲きように
作者の嬉しさもあるように思われた。
夫かぶりし冬のソフトにブラシかけ壁に掛け替ふパナマ帽子
兵庫 大 塚 照 美
冬にかぶるソフト帽にブラシをかけてしまい込み、替わって
夏のパナマ帽を壁に掛けた作者。
初句「夫かぶりし」は、過去の回想。
もはやその帽子の持ち主は、この世に居られない。
その亡き夫の帽子を今でも生前さながらに、季節に合わせて
掛け替える作者。
そこには季節ごとに帽子を替えて身を飾る生前の夫を、作者は
ことさらに好ましく思っていた様子が察せられる。
停電の経験ははやいつのことあるにはあるのよ捜す蝋燭
千葉 内 垣 米 子
突然の停電に戸惑う作者。
覚束ない様子で闇の中を必死に蝋燭を探した。
不測の事態に対して「停電の経験ははやいつのこと」などと思い
ながら右往左往するのは、作者ならずも人の常だ。
下句の「あるにはあるのよ」には、作者の心の焦りがよく投影
されていて臨場感がある一首だと感じられた。
県議会議員候補の応援のわれのマイクに友の窓あく
千葉 吉 村 昌 子
県議会議員選挙の応援演説に立った作者。
その街頭演説場所は友人宅の目の前だ。
候補者や他の応援弁士の演説に一向に姿を見せない友人。
作者の演説が始まって、ようやく窓から顔を覗かせた。
結句「友の窓あく」に、作者の快心の満足感が伝わってくる
内容歌だ。
ちなみに仙台は前々回の4月予定の選挙が東日本大震災の
影響で延期となり、それから4月が任期満了ではなくなった。
ちなみに仙台市議会議員選挙は8月25日投票。
そして宮城県議会選挙は10月27日投票だ。
宮城は選挙の夏、真っ盛りである。