歌誌「冬雷」2018年 5月号 私の心に残った歌 その6 | 北山の歌雑記

北山の歌雑記

短歌初心者の戯言
「うたは下手でもよい自分のうたを詠め」
目指す旅路の道中記

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前回に引き続き歌誌「冬雷」5月号の中で、私なりに特に心に残った 

歌を抜粋してみました。鑑賞・評などと大それたものでは無く

私なりに選ばせていただいた理由を少々記させていただきます。  

(☆新仮名遣い希望者)


口紅の真紅が似合う九十歳足引き摺りてリハビリに来る

兵庫 三 村 芙美代☆

 

口紅の真紅が似合うという九十歳の老婦人。

とても目立つ存在の様だ。

目鼻立ちがはっきりとして、往年の姿を彷彿とされるといった感じであろうか。しかしながら衰えは隠せない。

「足引き摺りてリハビリに来る」の現実に、かえって「口紅の真紅」が

作者には痛ましく感じられたのかも知れない。


梅の蕾膨らみだせばスギ花粉鼻の粘膜くすぐり始む

 茨城 吉 田 佐好子☆

 

春の到来を告げる梅の花。

その梅の蕾の膨らみが際立って感じられる頃、「鼻の粘膜くすぐり始む」と

いう作者。

春の到来は、花粉症の季節到来といったところだ。

春の到来である梅の蕾の膨らみを手放しで喜べない作者の複雑な思いを

感じる。


機が唸り黐の生垣刈りこまれ二月の風に木の香ただよふ

茨城 関 口 正 子

 

枝刈り機のエンジン音も凄まじく、黐の生垣の伸びきった枝が次々と

払われてゆく様子を眺める作者。

黐は樹皮をつき砕いて得るゴム状の強い粘り気を木の枝などに塗りつけて

鳥や虫などをとるのに使う「とりもち」の材料となるモチノキ属の樹木だ。

それは、外での作業を行えるよく晴れた日の事であったろう。

しかしながら二月の風は、温かさには程遠い。

その中でも、周囲に漂う木の香りと、整然と生まれ変わった生垣に

作者は清々しさを感じたのではなかろうか。


頭下げて出でたる直後施錠する金属音すどきんと重く

 埼玉 大 山 敏 夫

 

訪問先を退出する際に礼をして戸外に出た作者。

その早々に、ドアに施錠をする「ガチャン」という金属音。

もしかしたらドアが金属製で、なおさら響き渡ったのかも知れない。

結句「どきんと重く」は施錠の際に発する鈍い音でもあり、その早々の

施錠に「もしや望まれぬ客であったのか」というような思いがよぎる作者の

心情を表すどきんと重く」であるような気がする。

よく仕事上の電話で、要件を終えて丁寧な挨拶をいただいた後に突然

ブツリと電話を切る方がいるが、それと同じようなものだろう。

思わぬ誤解を持たれぬよう余韻というか、間を持ったタイミングが必要に

感じた。


津波跡にたつ水族館彼方まで建物とぼし周りはいまも

新潟 橘  美千代

 

採り上げた歌の前に

七年前津波に呑まれしこの辺り白のまぶしき水族館建つ(仙台港付近)の

一首がある事から、まぎれも無く詠まれている水族館は仙台市宮城野区に

ある仙台うみの杜水族館の事であろう。

地図上で確認すると、この水族館の近くに仙台東部道路があるが、その

手前まで津波が押し寄せている。

なお、この仙台東部道路の盛り土をして道路を通した部分は堤防の役目

果たし津波の流入抑制効果があったとされる。

作者の訪れた地はちょうど「明暗」が別れた場所ともいえるだろう。

その水族館を作者が訪れる道のりで周囲にまだ残る空き地に愕然とした

様子が、「建物とぼし周りはいまも」の下句で察せられる。

個人的には震災の数か月後、一度仙台港付近の変わり果てた光景を見る

機会があったが、その後は行っていない。

仙台うみの杜水族館も、もちろん存在は知っているのだがオジサン独りが

行くのも・・・と気おくれして、まだ行かず仕舞いだ。

仙台在住の私にとっては、私の知らない仙台の風景をこの一首で知る

といった感じだ。



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