【番外編】航空科学博物館訪問 その7〔セクション41 客室ドア〕 からの続きです。

学芸員さんによる客室ドアの説明が一通り終わり、次に移ろうかというタイミングで、私は学芸員さんに「もし差し支えなければ、これ



の説明もお願いできませんでしょうか」と、聞いてみました。


時間が押しているといいつつも、学芸員さんの目がキラリと光り「やりますか?」と一言。


私の質問が、学芸員さんの説明に一層火に油を注ぐ結果となりました。


「これ」というのは、ドア―モード・セレクタ・レバー、通常は内装のカバーで覆われているものです。


これを「NORMAL」と書かれた位置にセットしておくと、通常の開閉操作が可能な状態となります。


また「AUTO」と書かれた位置にセットしておくと、ドアの解放と共に脱出用スライドが展開する仕掛けとなっています(内装が剥がされているためこの写真では文字は確認できません)。


そして「これ」については、実は私には、数十年来の疑問があったのです。


私は学生時代、AGS(空港グランドサービス)という会社の羽田空港客室課というところでアルバイトをしていました。


到着した航空機にパッセンジャー・ステップ車(タラップ)を据え付けたり(これは社員さんの仕事)、客室内を次便の出発に備えて清掃・整備したりする仕事でした。


乗客の方の降機が終わると我々が機内に乗り込むわけですが、その際「ハイリフト」と呼ばれる荷台部分が航空機のドアの高さまで上昇するトラックの荷台に乗って機内に入ります。


普段は使用しないドア(ジャンボ機ですと、左側4・5番目のドア)から、乗り込むことが多かったのですが、そのとき、ドアは外側から開けます(これは社員さんの中でも資格を持った方だけが操作できました)。


ちなみに、特に国内線の場合は、次の便として出発するまでの時間が大変短く、また、機体の反対側(右側)のドアにはTFKさん(機内食の会社)のハイリフトも横付けされており、機内はまるで戦場のような様相を呈していました。


さて、ドアにある小さな窓からCAさん(当時はスチュワーデスと呼ばれていました)の親指でのOKサインを確認するとドアを開けることが可能となります。


ドアレバーの上にあるボタンを押すと、ドアレバーがV字型に飛び出してきます。その後、ドアレバーを半回転させます。


すると、ドアの上下部分が折れ、内側に格納されます(詳細は前回記事をご参照ください)。


しかし、こんな細かいことを公の場で公開してしまって良いのでしょうか? もっとも、ドア自体に説明が書かれていることでもあり、



実機も引退したことですし、安全啓蒙のためですから違法性は阻却されると考えることにしましょう。



話を元に戻し、担当社員さんは、ハンドルを半回転させたところで一旦手を止め、ドアの下部を念入りにのぞき込み、安全を確認したのちに、さらにドアレバーを回してドアを開けます。


このとき、何を確認していたのでしょうか。


脱出用シュートの状態を確認していたことは、社員さんから伺っていたので知ってはいましたが、具体的に何がどうなっていれば安全だと確認できたのでしょう?


このことが、数十年来の疑問だったのです。


学芸員さんが、実際にドア―モード・セレクタ・レバーを操作すると、その疑問は一気に解決しました。



ちなみに実機ではドアの窓から下の部分の内装は大きく機内側に膨らんでいて、その中に脱出用スライドが折りたたまれて格納されています。


ドア―モード・セレクタ・レバーが操作されると、ドアの下部にあるリンク機構が作動します。これによって、脱出用スライドの端部が、機体側に固定されるか、固定用リンクが外れてドア側に収納されるのかが決まります。


つまり、脱出用スライドの端が機体側に固定されていれば、ドアは脱出用スライドを引きずり出しながら開き、機体側に取り残された脱出用スライドが膨らみ、展開を始めます。


また、脱出用スライドの端がドア側に収納されていれば、ドアは脱出用スライドを格納したまま通常通り開くことになります。


くだんの社員さんは「リンクの状態を目視することで、脱出用スライドが機体側に固定されていないこと」を確認していたのでした。


学芸員さんの話は続きます。なんと747のドアは、ドア―モード・セレクタ・レバーが「AUTO」の位置、すなわち脱出用シュートが作動する位置にセットされていたとしても、機外からドアを開くと、自動的にドア―モード・セレクタが解除され、通常通りにドアを開くことができるのだそうです。


実際に実演をしていただきますと、外側からのハンドル操作によって、ドア―モード・セレクタ・レバーが「ガシッ」と音を立てて戻るのが分かります。


これは、救難隊が外部からドア操作を行ったときに、脱出用スライドが急に膨らむことで救助を妨げることがないようにするためだそうです。


確かに脱出用スライドは、ものすごい勢いで膨らんで展開しますから、そんなものが作動した日には、救助どころではなくなってしまいます。


それでは実際の現場では、何故あそこまで念入りに安全確認を行っていたのでしょうか。それはやはり、プロとしての安全意識なのでしょう(もちろんマニュアルの規定に基づく行動なのでしょうが)。


万が一、いや百万が一でもドア―モード・セレクタの解除機構が作動しなかったならば、脱出用スライドは、我々を吹き飛ばし、ハイリフトトラックをなぎ倒しながら膨らんで展開するでしょう。


もしそうなれば、少なく見積もってもその機体が当日飛ぶ予定の残りの便は全てキャンセルになるでしょうし、波及する被害はもっと大きくなることでしょう。


そこで、構造・原理的に究極の確認方法である「脱出用スライドの端部が機体側に固定された状態ではないこと」の確認を自身の目を使って行っていたのでした。


次回はいよいよ二階(コックピット)に向かいます。