今週の『NHKスペシャル』で、「最前線のうつ病治療の特集」が放送されていました。
私が勉強している心理学(認知行動療法や生理心理学)とも関係していたので、ここに放送内容をまとめておきます。
日本の現在のうつ病患者は、100万人を超えているといわれています。
ストレスの溜まりやすい現代社会において、誰がなってもおかしくない病気です。
うつ病は、古代ギリシャ時代からあったといわれ、医学の父・ヒポクラテスが、うつを「メランコリア」といい、それが憂うつを表す「メランコリー」の語源となっています。
そんな昔からあった病気なのに、うつ病の治療に、科学的な治療が取り入れられたのは30年くらい前でした。
それは、アメリカでベトナム戦争から帰還した兵士や不況でうつ病を発症した人が急増したから・・・。
その後、医師の診断のばらつきを防ぐためにマニュアルが作られました。それが、DSMです。(現在は、DSM-IV-TRです。心理学を勉強していると、このDSMが何度も何度も出てきます。
ただ、これは問診なので、正確に判断がつかないこともあります。そこで、脳科学の治療に注目が集まっています。
今、脳科学の研究によって、うつ病の診断や治療のあり方が見直されつつあります。
最新のうつ病治療で、うつ病のメカニズムも分かってきています。
最初に紹介されていたのは、アメリカで行われている治療「経頭蓋磁気刺激(TMS)」について!
これは、磁気刺激で、うつ病のための脳の活動を正常な状態に戻していく治療方法です。
磁気を頭の一部にあてて、症状が治まるまで、毎日治療を続けます。
ハーバード大学のアルバロ・パスカルレオーネ教授は、この治療について15年以上に渡り研究を続けてきているそうです。
うつ病患者は、脳の前の部分にある前頭葉の血流が悪くなっています。そこで、磁気刺激で血流を増やせば、前頭葉が活性化するのでは?と考えて開発された方法です。
研究の結果、うつ病の症状の改善に繋がる場所を発見!それが、前頭葉の左側にある★「DLPFC」という場所です。
「DLPFC」が活性されればされるほど、うつ病の症状が改善することがわかりました。
★DLPFCとは!
DLPFCは、背外側前頭葉前野のこと。
・機能 ①判断や意欲をつかさどる。 ②扁桃体の暴走を抑える役割。
うつ病の患者さんの脳は、DLPFCの活動が弱り、判断や意欲が低下してしまっています。
そして、うつ病の鍵を握っているのが扁桃体。
★扁桃体とは!
不安や恐怖、悲しみの感情が生まれる場所。
うつ病の患者さんの脳は、扁桃体が過剰に活動し、不安や恐怖や悲しみが止まらない状態になっています。
「DLPFC」は、「扁桃体」にブレーキをかける役割を担っているので、磁気刺激で「DLPFC」を良い状態に保てば、意欲が湧くと同時に、「扁桃体」が静まり、不安や悲しみが和らぐというしくみです。
その結果、運動や規則正しい食生活に取り組む意欲が高まることに!
テレビに映っていたうつ病患者さんは、この治療により、別人のように症状が回復していました。
治療前、うつむき加減で、涙が止まらず、人生を絶望の中で生きている・・・と仰っていましたが、この治療を1ヶ月行った後には、表情が一変して笑顔も見られました♪
ただ、この治療を日本で受けるには、まだ数年はかかるそうです。日本独自に安全性と有効性を確認し、承認できなければ治療に使えないそうです。(苦笑)
★日本で、磁気刺激治療を行っている病院(まだ安全性と有効性を確認しています。)
神奈川県立精神医療センター 芹香病院
※治療を受けるには、条件があります。薬で1年以上改善しない患者さんの中から、さらに条件を絞って磁気刺激を行っています。
他にも、手術で、患者さんの頭に電極を埋め込み、脳の働きを変える方法も紹介されていました。(脳から胸にかけて磁気を埋め込む方法です。ちょっとビックリな方法なんですけどね!)
「脳深部刺激(DBS)」という方法です。
この方法は、カナダやスペインで研究が進められています。
ここで、25野についての解説がありました。
★25野
意思決定、共感や情動といった認知機能に関わっている場所。うつ病の鍵を握っているといわれている場所です。
25野を刺激すると、「扁桃体」や「DLPFC」の両方に作用することで、脳を正常化できるそうです。
「脳深部刺激(DBS)」の治療は25野を活性化させ、不安、恐怖、意欲低下を改善できるそうです。
その他の治療、「光トポグラフィー検査」!
これは、日本でも行われている治療です。
現在、山口大学医学部附属病院など全国13か所で実施されています。
頭に近赤外線をあてて、言葉を考える課題を行っている時の扁桃体やDLPFCといった脳の血液量の変化から、うつの症状を調べる検査です。
この検査の良い点は、検査結果で、「うつ病」、「統合失調症」、「双極性障害(躁うつ病)」といった症状の近いものでも区別がつくことです。
うつ病治療が抱える大きな問題の一つに、「うつ病」と「双極性障害(躁うつ病)」の区別がつかず、誤診してしまうケースが多いことがあげられます。(理由は、双極性障害の患者さんがうつ状態に受診するケースが多いためです。)
うつ病の患者さんと双極性障害の患者さんを誤診すると、大変な事態が起こることがあります。
双極性障害の患者さんが、そう状態に抗うつ薬を飲むと、気分の波が押し上げられ、極端に気分が高揚し、危険な衝動にかられることになります。命にかかわる危険もあるということです。(テレビで紹介されていた双極性障害の患者さんは、突然、歩道橋から飛び降りたくなったことがあったそうです。)
症状が悪化する前の治療も紹介されていました。
それが、「認知行動療法」です。(私が勉強していることです♪)
言葉の力で治す方法です!カウンセリングによって、うつ病患者さんの意識を変える方法です。
例えば、もう後、1時間しかない・・・という考えを、まだ1時間あるんだ!というポジティブな考え方にする方法です。
この認知行動療法の解説に使われていた映像は、過去に『クローズアップ現代』で紹介された方法です。「認知行動療法」に関心のある方は、私の過去のブログをどうぞ、こちら です。(『クローズアップ現代』で「認知行動療法」を特集した時の内容をまとめてあります。)
最後に、うつ病を予防する方法が紹介されていました。
今、さまざまな脳の領域がどのように作用しているのか?感情を正常な状態に保っているのかが分かってきています。
最後に紹介された方法は、脳の活動をリアルタイムで観察できる装置(MRIのような装置でした)を使っていました。訓練を行えば、「扁桃体」を自分自身でコントロールできるようになるそうです。
例えば、何を思い出せば、楽しい気持ちでいられるのか?(訓練を行っている方が、旅行に行ったときのことを思い出したら、Happyな気分になれたと言っていました。)
この方法で、「扁桃体」の暴走を抑えることが出来れば、うつ病の予防に繋がるそうです。
脳と心の不思議な関係が少しずつ見えてきている・・・という番組でした。
以前から、脳科学と私の勉強している心理学は深い関わりがあるということに関心をもっているので、とても勉強になりました。
残念ながら、日本では、うつ病の治療が大変遅れています。命に関わる危険もあるのに・・・。
私が学んでいる認知行動療法も、アメリカやイギリスに比べるとかなり遅れています。
精神科に行くのには、とても勇気がいると思います。そして、せっかく通院したのに、薬で症状が改善されず、さらに不安が募って苦しんている人たちが大勢いるという状況を、国はもっと深刻に受け止めなければいけないと思います。
少しでも、うつ病患者さんが希望通りの治療できる環境が整えば・・・苦しい症状から救われれば・・・と思っています。
私も、もっと勉強しなければ・・・と思っています。