前の記事、時間の都合で中途半端に終わってしまったので、追加したらよかろうと、安直に思ってたのですけど、いいねをいただいてしまったので別の記事にします。どうもありがとうございます![]()
蛇足と思われるかなあ...フィギュアスケーターの中にはバレエダンサーになってもおかしくないような、バレエ技術を持つ人がいる、という話の続きです。実際の演技をみてもらったほうが納得がいくかなと思いまして。あと、バレエ技術があって美しくても心をゆさぶられないのはなぜ、というのをちょっと考えてみたいです。
ロビン・カズンズとジェフリー・バトルの演技をあげてみます。
カズンズには「白鳥の湖」というもろバレエの演目があります。
でだしの指の使い方みてくださいまし。バレエでしょ?あと腕ですね。ジャンプの着氷の姿勢もきれいです。1分58秒ぐらいからのゆるやかなテンポでの身体のラインの美しさ。
ロイヤルで学んだんだなあ、というスタイルです。いわゆるRAD(ロイヤルアカデミー・オブ・ダンス)メソッド。ワガノワとかオペラ座みたいな派手さはないでしょ?でも、なんとも上品で端正じゃないですか。カズンズといえばキャメルスピン。この演技では二回やってます。あとのほうがみごたえあるかな。そして最後の悠々としたポーズ。氷上のバレエですねえ。この演技を単に所作が美しいですませる気にはなれないです。身体のラインそのものがすばらしくきれいですもん。
でもね、でもね、私が一番すきなのはこのエキシの演目です。フリーと同じ衣装で踊っているのですけど。
この人にノックアウトされて、フィギュアという迷宮に迷い込んだんですよねえ...ついでにいうと、マイケルご本人を見るより先にこの人の演技をみてマイケル・ジャクソン・ファンになったのでした。なんのこっちゃ、というかんじですが。
バトルはもろバレエだと思った演目はなかったような。四回転とか苦戦して、演目そのものをだいなしにしていた記憶も鮮明です。
だけど、いいとき、特に世界チャンピオンになった2008年WCのバトルにたりないところなどあったでしょうか。SP、FSともにすばらしいものでした。今見てもなお。2008年WCでは四回転をあえてはずして挑んで優勝しています。
回転数が多いジャンプをとぶのは、そりゃ、スポーツとしては立派なことですが、見て面白いかどうか、感動するかどうか、に重点をおくなら、どうでもよろしい、それよりすべりや音とのつながり、表現を重視すべきじゃないの、なんて思ってしまいます。
バトルの演技は、たとえジャンプで失敗しても、その失敗にひきずられない箇所での姿勢や腕の表現と音取りは常に楽しめるものでした。
両演目とも、ストーリーがあるとしても、自分にはどういうものかってよくわかりません。見る時々によって勝手に話をこしらえるときもありますが...だけどスケートや踊りをみるときって、必ずしも、感情などストーリーとテーマがもたらすものに惹かれるのじゃないですよね。バトルの演技をみるたびに思ってしまいます。で、そう思う理由の何割かはバレエによって培われた美意識というか身体の動かし方やニュアンスのだしかたにあるのじゃないのか、なんて思ったりします。指先を含む腕、ジャンプのときの降りたときなどの姿勢、ポーズをみてくださいね。バレエのテクニックをみせようとしているわけじゃなくて、バレエが断固とした基礎となって支えているのではないか、と思える演技です。
どちらも振り付けはデイビッド・ウィルソンです。
で、ついでにいってよいでしょうか。これでFSのINが8点ジャストをのぞいて、PRはすべて7点台です。今の9点台ついている演技って、これよりまさってます?いや、と思ってしまうのってまちがいかしら。10ついてもこれよりはるかに下の演技だらけなんじゃないのと毒づきたくなるのですが... 一回リセットして、ISU主催大会で優勝する演技でも7ぐらいにしてしまったらどうでしょう。
https://www.isuresults.com/results/wc2008/WC08_Men_SP_Scores.pdf
https://www.isuresults.com/results/wc2008/WC08_Men_FS_Scores.pdf
同じようにバレエをやっていても、上にあげた人たちのように、バレエの技術がしみこんでる、少なくともポイントをしっかりつかんで自分がしたい表現に結びつけることができる存在って、ごくわずかです。
頑張ってバレエレッスンをやったとしても、必ずしも上達するとはかぎりません。
バーレッスンでかなりできるようになった動きでも、フロアで振り付けの一部にはいったとたんバーの半分もできなくなる、なんてこと、どんなお稽古場でもおこっています。
これは身体能力の高いアスリートでもそうでしょう。
踊るのがフロアでなく、氷上であっても、できないのは当然です。
それでもバレエで教えてもらったことを生かそうという意識があるのであれば、ある程度、所作がよくなるかもしれません。
だけど、得点源であるジャンプを決めなければ、という意識がむやみに強ければそれは難しくなる。
バレエをやっているのにこのあらっぽい所作はなに?というスケーターは、そういう状況で生まれているのじゃないでしょうか。
最初の記事に次のようなコメントをいただいています。
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ロシアの選手って美しいと感心はするけれど、感情が揺さぶられないなぁ~、こう見える技術を教え込まれてるんだろうか??って思ってみてました。すごく興味深いです。
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それに対して
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ロシアの選手って、ごく一部をのぞいてはロシアのバレエが底辺にあるなあってかんじですよね。ほぼまちがいなく全員がバレエ経験者なのじゃないでしょうか。バレエ的な表現、私はけっこうのせられてみてしまいますが、真実味がないって思われるのはわからないでも...バレリーナにしても、ずしんとくる表現ができるようになるのはそれなりの年月必要ですが、ロシアで活躍している選手はほぼ10代ですから...
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となんのことだ?というようなコメントを返してしまったので、少々追加。よけいわからんわ、といわれたりして.
いただいたコメントをみて、ぱっとうかんだのは、ザギトワとシェルバコワというオリンピック金メダリストです。ファンの人が見ていらしたらごめんなさい、です。あくまで私見ですので、不愉快でしたら以下は無視してください。
いいところはわかります。二人とも、すぐれたバレエ技術に裏付けられた美しい演技をします。ポーズとかきれいにとりますよね。ジャンプ技術も、シェルバコワが四回転で氷の上を下回るとかいう問題点はあるようには思えましたが、二人とも、まずまず安定していました。
エテリが生み出したトレーニングが効果をあげたのでしょう。ジャンプを一回余分にとんで難易度をあげた練習をしておくと、本番になると余裕をもって飛べる、というやつです。
このトレーニングにヒントをえて連続ジャンプをとべるようになったというスケーターが、ショーの演目中に、音楽をガン無視して、回転不足の連続ジャンプをとんだときにはぞっとしましたが、練習法そのものは効果的な方法だと思います。
だいたいエテリ組は練習ではそういうことをやっても、エキシであっても連続ジャンプを披露したりなどしませんでした。あくまで本番で成功させるためにやっていたからでしょう。音楽を尊重しないなんてこと、エテリ組はやりますまいよ。第一、余分な連続ジャンプでの回転不足もエテリ組は少しマシでした。やりたければ、エンディングの一芸大会あたりでやるべきです。作品の表現に不要なものはよぶんなもの、とくに音楽との調和をこわすのはだめな要素じゃないのかしら。一芸をみせびらかしたいのなら、演目以外のところでやらないと。
ザギトワがオリンピックで金メダルをとったときの演目はブラックスワンにドンキともろバレエに関連するものでした。美しいポージングをする人で、クラシックの演目はぴったりだったかもしれません。
シェルバコワはザギトワほどバレエバレエした演目やってなかったよなあ、と思ってチェックしてみると、火の鳥を使ったことがありました。ふ~ん。すっかり忘れていたというのは、いいと思わなかったということかなあ。???がついたとはいえ、4Lzもとんでました。さらには、トゥルソワと一緒にみていたせいか、シェルバコワのほうが美しい演技をする意識は強かったようにみえました。
そう、うまい人たちです。だけど、ふうん、うまいなあ、程度でおわってしまって、すごいと何度もみかえしてしまった覚えはありません。
エテリ組って勝利のための計算をして緻密に演技構成をたて、練習し、本番に挑むところです。そして勝利を得るためには決してあきらめない。PRでいい得点をとることはめざしても、顧客の印象にのこる演技をするのは二の次で、あくまで勝利を得るのが第一なのじゃないかな。そしてそれは必ずしも間違っているとはいえますまい。
ザギトワ、シェルバコワはそのパターンで成功をおさめた例じゃないでしょうか。ザギトワには、感情表現がうまいという印象はありません。だけど演目はバレエ演目でしょ?ブラックスワンはちがうといえばちがいますけど、下敷きになっているのはクラシックバレエの演目です。クラシックバレエには、きれいな型やら表現のお約束ごとというのがあって、それを守ればそれなりのものができます。お約束ごとは見事に守られてはいますが、感動するにはあと一歩たらないのじゃないかと。
シェルバコワも感情がゆさぶられた覚えはないです。これは演技の問題より見ている側の問題なのかなあ...
一ついえるのは、表現は年々深まっていくということ。ランビエールはいい例じゃないかな。現役のときからすばらしい表現者でしたけど、プロになってからどんどん冒険をしていき、注目度を高めています。とくに今年のFaOIは格別でした。
女子で一人あげるなら、カロリーナ・コストナーをあげたいです。
シニア2年目の2005年WCで銅メダルをとったまでは順調でした。でも、翌年、旗手をつとめて注目されたトリノ・オリンピックのときは暴走列車みたいな演技。ミスも多いし転倒もありましたっけ。結局9位でした。そこから2年ほどは、欧州選手権で優勝はあったものの、全体としてあまりよくなかったです。21になった2008年にWC銀メダリストになり、欧州選手権での優勝が続くなど、今度こそカロリーナの時代がくるかとおもいきや、2010年バンクーバーでは16位。やっと安定した成績をのこしだしたのが2010-11年シーズンごろからでしょうか。WCだけとっても2011年銅、2012年は金、2013年銅、2014年銅と4年連続してメダリストになり、2014年のバンクーバーでは銅メダル。出場停止処分を受けた後はオリンピック、WCなどでは表彰台にはあがれませんでしたが、雷神、ニシ・ドニムス、行かないで、牧神の午後など、未だに脳裏から離れないスケーティングと表現をみせてくれました。最後のWCのSPは1位でした。ヌキトゥバ。なんて歌詞がいまでもすぐにでてきます。ボロボロ泣いてみた覚えがあります。引退したときは30代になってました。ほんと、年齢と経験が表現に厚みとなっていった好例でしょう。トリノの頃のカロリーナ思い出すと、うそみたいな気がします。
この年齢があがるにつれ、表現がゆたかになっていくという現象はフィギュアスケートだけじゃなくて、バレエでも見られます。得意演目で、若いころからすばらしくても、年月をかさねるにつれて、かつてはなかったニュアンスがつき、より豊かになることも。
十代のスケーターにこのような豊かさを求めるのは無理があるというもの。だいたい意識的にニュアンスをだすなんてできないはず。ロシア女子できれいだけど特に好きなわけではない、と思うときって、やろうと決めた事はきちんと実行しているとはいえ、感情をゆさぶるだけの味付けをすることができないということじゃないでしょうか。メダルは得られても、心をわしづかみにできる観客の割合は必ずしも高くないといえばいいのかな。もしかするとあと何年間かとりくむと、心揺さぶる演技をする存在になったのかもしれないけれど、あくまでそれは可能性に終わってしまったというか。
未熟さといいかえていい若さがプラスに働き、心揺さぶられることはもちろんあります。次のいずれかが起こったときかな。
何らかの形で若さが持つエネルギーを爆発させ、それが演目にあった場合。
感受性が強く、演技にのめり込める表現者である場合。
この両方が重なれば、いわゆる旬の味を楽しめるといいますか...
若さのエネルギーを爆発させた例というと、なんといっても2012年WCの羽生君のFS、ロミジュリです。とくに3:49からあと。なんだろう、これは。滑りとか、技術的にはいろいろあらっぽいです。表現にしてもそう。ダンスをやって姿勢のクセを矯正するなど身体の使い方を習っているわけではないです。だけどこの爆発力。ジュリエットを失ったと思ったときのロミオの絶望感とかぶるものがありました。実は、それまで、ロミオが死ぬのを。なんてばかな、早とちりして死ななければハッピーエンドになったのに、なんてかわいそうなジュリエット、って思ってたんですけど、これみて、はじめてロミオの行動に納得できて、同情心がわきました。ほんと、忘れがたい演技です。
エテリ組で、こういう爆発はみた覚えないです。緻密に計算してこしらえたレールにのって演技をくりだして勝利しているようなものだからなのじゃないかと疑っています。
とはいえ、「感受性が強く、演技にのめり込める表現者」はエテリ組にもいると思ってます。あくまで私見では、ですが、ワリエワはおそらく。ジュニアにならないときのバレエ要素の強いダンスレッスンの映像をみたときはびっくりしました。身体がみごとにコントロールできるだけでなく、独自の音の取り方をし、それにのっとって動くことができていました。つまりアーティストとしての感受性を感じるものになってました。なんだこれは、と思ったのを強烈におぼえてます。
今から考えたら、勝利者となる戦士を生み出すのを目的とするエテリ組の範疇からはみ出した存在だったといっていいのかもしれません。音に敏感に反応する感性をもっているということは、アーティスティックな感受性が豊かということ。たいがいの場合は演技のプラスになるのだけど、それが裏目にでることがありえる、ということです。オリンピックの最中にドーピング騒動がおこってFSががたがたになってメダルをのがしたわけですけど、FSの演技の後、エテリが「なぜ戦わなかったのだ」と責めたという記事を読んだおぼえがあります。それに対してただ泣いていたらしいですが、そうでしょうねえ...
続きの
II. バレエはやっていないけど、所作が美しく、表現力があるスケーターがいるというのはどういうことなのか
はちょっとまがあく予定です。もしかして来週になるかもしれません。よろしければお付き合いください。
