※ネタバレを含みますが、一部を省略したザックリめのレビューになります

 

 

内田英治さんの『ナイトフラワー』のレビューになります。こちらは北川景子さん主演の映画『ナイトフラワー』の原作(文庫書き下ろし)で、さくっと読めるところがオススメ。時間を取らずに読めるので、映画と一緒にご覧ください。

 

※ナイトフラワーとは‥月下美人のこと。一年に一夜しか咲かない。(しかし環境によっては年に数回咲くらしい)花言葉によると「ただ一度だけ会いたくて」「儚い恋」などの意味を持つ。一方で「厳しい環境でも生き抜く力強さ」という意味もあるらしい。

 

 内容紹介

 

以下は超簡単なあらすじと登場人物紹介になります。

 

 

あらすじ 
借金苦で二人の子供と東京へ逃げてきた夏希は、ある夜、ドラッグの密売現場に遭遇し、売人になる決意をする。そこで出会ったのは、深い孤独を抱える女性格闘家・多摩恵。夢を叶えるためにタッグを組んだ二人は、さらに危険な世界へと足を踏み入れていく―。心揺さぶる、奇跡の愛の物語。

 ◆登場人物◆

夏希 小学三年の娘と保育園児の息子がいるシングルマザー。バイトを三つも掛け持ちしているが、夜逃げした元夫の会社の借金を抱えているため生活が苦しい。借金取りから逃げるように関西から東京へ引っ越して来た。

 

多摩恵 地下格闘家をしている多田ジムのホープ。脳梗塞で倒れた父親が入居している施設のお金を稼ぐため、デリヘル嬢をしながら夢を追っている。

 

 裕福な家庭で育った大学生。悪友と付き合うようになってから家に帰らなくなる。無関心な父親と過干渉な母親を嫌っている。

 

小春 夏希の娘。前の学校の授業でバイオリンを習っていたが、転校先にはそのプログラムがなく、現在は無料の音楽教室に通っている。しっかり者で成績も優秀だが、学校ではシスターズと呼ばれるグループの女子たちからいじめられている。

 

小太郎 夏希の息子。落ち着きがなく、園でも問題を起こしている。他の保護者からADHDを疑われる。

 

 多摩恵の幼馴染で、彼女に片想いをしている。元暴走族で鑑別所送りになった過去があるが、現在は仲間から離れ、多摩恵と同じデリヘルで運転手をしている。

 

みゆき 桜の母親。娘を心配して探偵を雇う。

 

※他にも重要キャラはいますが、ここでは省略しています

 

 エクスタシーいりませんか?

 

※以下はネタバレを含む内容になります

 

  ▼ドラッグの売人になるまで

上司からの嫌がらせにブチギレた夏希は、職場で発狂してしまい、バイト先を一つ失う。もう一つのバイト先のスナックでは、毎晩ベロンベロンになるまで飲まされ、体力的に限界を感じていた。そんなある日、仕事帰りに道端で吐いていると、ドラッグの密売現場を目撃する。しかし売人は現場を去ったあとに窃盗犯から暴行され意識を失う。すると夏希は犯人たちが去ったあとに、売人からドラッグを奪って逃走してしまう。その後デリヘル店の近くでドラッグを売るが、これは明日の生活費さえない夏希が、子供を育てるための唯一の手段だった。

 

一方、多摩恵は、反社の縄張りでドラッグを売り、売人から懲らしめられている夏希を見て気の毒がっていた。手をかしたいと思った多摩恵は、さっそく海のツテで闇の人間に話を通してもらった結果、夏希は暴力団の下で正式に売人デビューを果たす。その際、多摩恵は夏希を一人にできないと、自らも売人になった。

 

▼ドラッグに手を出すまで

桜は悪友の金蔓にされ、夏希たちからドラッグを買っていた。気づいたときには薬中になっており、最終的に警察から職質を受けた際に逃走して、そのまま事故死してしまう。

 

 印象的だったシーン

個人的に注目してほしいシーンベスト⑤

 

①小春が夏希に気遣って教室代は無料だと偽り、路上で演奏ライブをしながら月謝を稼いでいたシーン

 

②毎日餃子が食べたいと叫ぶ小太郎のために、夏希が廃棄された餃子弁当を盗んでくるシーン

 

③どんなに惨めな思いをして帰ってきた夜も、小春が具なしのケチャップライスを作って待っていてくれるシーン 

 

④お腹を空かせている小春が給食をおかわりするたびに、シスターズから悪口を言われるものの全く気にせずに堂々としているシーン

 

⑤海が多摩恵のことを心配しているシーン全部

 

私は完全に小春推しです。この子はバイオリンの才能があるし、何らかの支援を得つつ環境さえ整えば、単に金持ちパワーで上手い位置にいる子たちとも張り合っていけると思うので応援しています。

 

 まとめ

 海が抱く多摩恵への愛情は、もはや恋愛ではなく家族愛だったのかもしれないと思いました。彼は絶対に泣かなかった多摩恵が夏希の前では号泣している姿を見て、「多摩恵のことを理解しているのは自分だけじゃなかった」「多摩恵にも心許せる相手ができたのだな」と諦めの中で寂しがっていました。それはまるで自分のもとから巣立っていく娘を見送る親のようだなぁと。それと同時に海にとって、強い多摩恵は母親のような存在でもあり、離れがたい存在だったのだと感じました。なんだか切ない。

 

ここからは考察です。(ハッピーエンドver)

 

美形でありながら、全く男に興味がなかった多摩恵ですが、なぜか夏希のことだけは初めて見たときから「キレイな人だな」と気になっていたようです。だからこそ売人になることにも協力したし、友人になってからはますます彼女の苦労を知り、より助けになりたいと思うようになっていました。

 

この夏希の魅力とは何なのでしょう?

 

実は夏希は小学生時代も同級生の瑠璃子から恋愛感情を持たれていたのです。また、夏希たちが所属する売人グループのリーダーからも、「子供のために奮闘している母親」として一目置かれています。(ちなみにその人はクリスチャン)

 

おそらく闇の世界で暮らす人たちは、夏希を聖母マリアとマグダラのマリア両方と重ねてしまうのでしょう。無意識に彼女に救い求め、救ってあげなければと思ってしまう。だから本来、薬中の桜が亡くなった時点で、売人の夏希たちも処理しなければならないところを見逃してくれたのだと思います。

 

もう一人のマリアと言えば、亡くなった桜の母親・みゆきです。彼女は桜にドラッグを売った夏希と多摩恵を憎み、殺害しようとしたものの、やはり最後は殺せなかったのだと思います。おそらく夏希が小春たちの母親であるということが、みゆきの怒りをゆるしへと変えたのでしょう。それだけではなく、夏希のそばには瑠璃子がついていたのだと思います。おそらく瑠璃子は亡くなっていて、今も夏希のピンチを何らかのかたちで救ってくれているのでしょう(と、思うような匂わせがあった)。

 

ラストシーンは夏希、多摩恵、小春、小太郎の四人で「海」へ行きます。この「海」には、多摩恵を守って処理された「海」のことも掛けている、表しているのかなと推測。せめてそうだと信じたい。


※ このレビューは映画公開前にしたものなので詳細をボカしている部分があります。以下は追記。


映画公開後すぐにあちこちでネタバレ考察がされているので、便乗してゲロっちゃうと、実は本書には物語の不穏な結末を匂わせる絵画が登場します。それを読むとバッドエンド確定?なのですが、ここではあえて望み薄のハッピーエンドverにしました。なのでレビューの最後に『せめてそうだと信じたい』をつけていたのです。他の方の感想にもあったとおり、さすがに薬売って儚く散る〜みたいな展開はどうよ?花言葉に「厳しい環境でも生き抜く」的な意味があるのなら、ちゃんと生きて逮捕されなさいよね!死んで解決とか、死を美化にするのはちょっとねー。


ちなみに夜に開花した月下美人が朝まで咲いていた例はあり。満月や気温が関係しているとか何とか。また、夏希と多摩恵は死んだけど、子供は生き残った説も残したいっ。月下美人=夏希(海にとっては多摩恵も)だから、子供の無事を確認して咲いたとかミラクル的希望も入れておく。だって子供は悪くないし。銃の素人が冷静さを保ちながら標的を撃てる確率めっちゃ低いらしいし。密売&薬中&銃刀法違反及び殺人未遂容疑で全員まとめて逮捕されてくれ。だからミラクルが起きた、起きなかった、どちらも好きに解釈してOK。


長くなりました。ようやく総評です。

 

読みやすさ★★★★★

切なさ★★★☆☆

スリル★★★☆☆

 

登場人物たちが「すいません」と謝るシーンが多かったが、人並み以上の教養と社会人経験のあるみゆきまで、深刻な場面で「すみません」ではなく「すいません」と言っていたのには違和感が。状況とは正反対にちょっと適当っぽく聞こえてしまった。

 

夏希が切羽詰まったときに出る関西弁の迫力を味わうには映像のほうが◎。感情が煽られるかも?

 

ナイトフラワーが最後にひっそりと咲いた演出は◎

 

尚、ここでは夏希に焦点を当てたレビューになっています。多摩恵視点の詳細については、原作or映画でご確認ください。

 

以上、レビューでした!

 

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