ひもとく | 菊と斧

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久しぶりに万葉集をひもといてみた。

 

 

はねかづら今する妹がうら若み笑みみいかりみ着けし紐解く

(はねかづらをつけたばかりのあの娘はまだ歳がいかないので、ほほえんだりおこったりして紐を解くことだ)

 万葉集の中でも屈指のエロチックな歌だ。

 

結へる紐解かむ日遠み敷栲のわが木枕はこけむしにけり

(結んだ紐を解いて共に寝る日が遠い先なので、私の木枕には苔が生えてしまった)

 孤閨をかこつ、というやつです。

 

真菰刈る大野川原の水隠りに恋ひ来し妹が紐解くわれは

(ひそかに思い続けてきた娘の紐を解くことだ、このわたしは)

 ワクワク、ドキドキ、恋の成就です。

 

筑紫なるにほふ児ゆゑに陸奥の可刀利少女の結ひし紐解く

(筑紫の美しい娘のために東国の果ての香取(?)の娘の結んだ紐を解くことだ)

 男というものは、、、

 

ゆゑもなくわが下紐の今解くる人にな知らせ直に逢ふまでに

(わけもなしに私の下紐が解けました。人には知らせないでください。直にお逢いするまで。)

 下紐が解けるのは人と会える前兆と考えられていた。

 

万葉集の恋の歌を見ていると「紐解く」という表現がたくさんでてくる。手元の古語辞典には「異性と共に寝ることの婉曲表現」と説明がある。

一夜を共にした後、お互いの下紐を結び合って、次に会うまでその紐を解かないと誓い合って別れたという。

 

時々「万葉集を紐解く」などと書かれているのを見かけるが、きっと万葉集を読んだことのない人か、あるいは洒落のわかる人が書いているに違いない。本人は洒落のつもりで書いたとしても読む人がそう理解してくれるかどうかはわからないので、恥ずかしい表現は避け、ちゃんと「繙く」と書くか、知らないならひらがなで書くのが無難。