末期の慢性腎臓病(CKD)患者に行われる腎臓移植手術のイメージが様変わりしている。臓器移植手術と言えば、かつては臓器提供者(ドナー)と、提供される人(レシピエント)とも大きな体の負担で、長期の入院を余儀なくされるという印象があった。それがドナーは内視鏡手術で入院期間が短期で済むほか、人工透析を経ないで移植手術を受けるケースも増えている。近年の免疫抑制剤の進歩もあり、拒絶反応を起こす人も少なく、ドナーとレシピエントの血液型が違っても移植手術は可能となっており、夫婦間での手術も増えている。

 「人工透析を受けないで、腎臓移植手術をした方が患者の生存率は高い。当病院の場合の10年生存率は91.5%」と指摘するのは、東北以北で最多の腎臓移植手術を手がける市立札幌病院(札幌市中央区)腎臓移植外科の田邉起(たつ)医師だ。

 同病院は1985年に生体腎移植手術を始めて以来、これまでに千件近くの手術を手がけ、現在も年間40件ほどの手術を行っている。

 最近の特徴は人工透析を受けないで手術を受ける「先行的腎移植」(PEKT)が全体の4割を占めていることだ。

 人工透析にはさまざまなリスクがある。透析開始時は体が慣れていないことによって起こる短期的合併症があり、頭痛や吐き気、血圧低下などの症状を起こす。長く続けていると長期的合併症を起こす。心臓に大きな負担がかかり心不全を起こしたり、動脈硬化が進みやすくなり脳卒中など血管系の病気を発症する恐れがある。

 田邉医師は「さまざまな合併症の重篤化を考慮すると、早くに腎移植を受けることはメリットがある」と強調する。

 かつては拒絶反応のリスクが高いとされた「ABO血液型不適合移植」も、免疫抑制剤や医療技術の進歩で、血液型適合移植と同等の成績となっている。市立病院の場合、3割でABO血液型不適合移植が行われている。

 夫婦間での臓器提供も増えており、現在は5割以上に上っている。腎臓は状態が良ければ年齢の制限はなく、80代のドナーもいるという。

 手術の負担も軽減されており、ドナーからの腎臓摘出は腹腔(ふくくう)鏡が使われる。同病院腎臓移植外科の佐々木元(はじめ)医師によると、側腹部3カ所に1センチほどの穴を開け、腹腔鏡で腎臓摘出のための前処置を行い、下腹部を7センチほど切開して、腎臓を摘出する。

 佐々木医師は「かつては20センチほど切開していたが、腹腔鏡の使用で傷口が小さくなり入院期間は術後5日で済む。レシピエントは15センチほど切開するが、術後2週間で退院できる」と語る。

 腎臓移植を受ける対象は、慢性腎臓病の診断で使われる数値GFRがステージ5(末期腎不全)で、全身感染症がない、活動性肝炎がない、悪性腫瘍がない、術後に免疫抑制剤を服用できる―などの条件がある。

 PEKTを希望する場合はGFRがステージ4の段階から準備する必要がある。移植施設の選定、移植手術前の検査、移植前にしか受けられないワクチン接種などを行い備える。

 生体腎のドナーの条件は年齢が20歳以上で原則、6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族で、腎臓機能が正常で心身共に健康な状態の人。片方の腎臓を提供すると腎機能は低下するが、市立病院は「ドナーの手術前の検査を厳格に行い、将来的に慢性腎臓病となるリスクがない人のみの提供としているため、提供後の日常生活に支障をきたすことはない」としている。

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腹腔鏡を使って行われる臓器提供者からの腎臓摘出手術(市立札幌病院提供)

田邉起医師

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佐々木元医師

2024年4月3日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載