福祉施設などで会話をしながら高齢者らにネイルアートやハンドケアを施す「福祉ネイル」が道内でも広まりつつある。「鮮やかな爪を見ると元気になる」と利用者からも評判だ。手元を美しく整えることで前向きな気持ちになったり、ネイルがきっかけで会話も増えたりするなど、心にも彩りを添えている。
■会話に花 「気持ち高まる」
 「きれいにしてもらえるから楽しみなの」。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「SOMPOケア そんぽの家S札幌発寒」で3月中旬、施設利用者向けの福祉ネイルのイベントが行われ、参加した90代の女性は笑顔を見せた。女性は「デイサービスに行くと、うらやましいと言われる」とピンクのラメ入りのマニキュアを塗った指先を何度も見つめていた。
 この施設の福祉ネイルは、一般社団法人「日本保健福祉ネイリスト協会」(大阪府岸和田市)の民間資格・福祉ネイリストの試験も兼ねていて、受講生が行うため高齢者たちは無料で受けられる。
 同協会の福祉ネイルは、利用者に負担をかけないように10~30分の短時間で体調に気を使いながら行うのが特徴だ。高齢者はネイルアートの見本を見ながら色やデザインを選び、ブドウやサクラ、ウサギの模様のネイルアートをしてもらう。互いに爪を見せて「あなたの色すてきね」と褒め合った。
 ネイルケアは女性だけでなく、男性にも人気で、今回のイベントで爪磨きをしてもらった80代男性は「きれいにすると気持ちが高まる」と話していた。このサ高住でイベント企画などを担当するフロントの宝金(ほうきん)菜津実さん(38)によると、イベント後は、食事の時間なども利用者同士でネイルについて話しているという。
 この協会の福祉ネイリストは、爪の構造や、マニキュアの塗り方に加え、高齢者の特性や介護の現状など、福祉に関する基本知識を習得している。3月末時点で全国で約2205人、道内では98人が資格を持つ。道内では2019年には10人ほどだったが、この年に協会認定校の北海道札幌校が開校し約10倍に増えた。特に、直近2、3年は交流サイト(SNS)などで活動が広まり増加傾向。看護師や介護士などの医療・福祉職、ネイリストなどが活動の幅を広げようと取得する場合が多いという。
 3月のイベントで福祉ネイリストの試験に挑戦した苫小牧市在住の訪問介護員藤沢恵子さん(44)は「生活のモチベーションが上がるような美容に関するお手伝いができたら」と受験した理由を語る。
 東京通信大の佐藤三矢(みつや)教授(保健学)は、福祉ネイルについて「ネイルは一度塗ると1週間以上は保てるため、喜びを感じられる時間が持続する。きれいになった自分の爪を見ることは適度な刺激になり、認知症のケアにも効果的だ」と説明する。
 同協会の北海道札幌校講師の今野さおりさん(47)は「これからも高齢者らが健康に過ごせるよう、ネイルを通じてサポートをしていきたい」と話している。

2024年4月2日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載