ターミネーターの強烈冷凍機 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

窒素ガス凍結機

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屋外プレハブ冷凍庫 -20度
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内部
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室内プレハブ冷凍庫 予備
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会社には強烈な急速冷凍機がある。電気は室温調整メーターしか使わず中はがらんどうだ。しかし安いものでもなく二百万以上する。電気による冷凍技術には限度がありマイナス50度くらいまでだ。漁業などの冷凍チャンバーもマイナス25度程度で、マグロ専用でもマイナス40度くらいだ。これらは通常の保存温度で急速ではない。マグロ船も以前は電気凍結だったからマグロの品質は悪く大量のドリップが出ていた。窒素ガス凍結になってからは数段に品質が向上、回転寿司でも美味しい魚が安く食べられるようになった。

窒素ガスは映画ターミネーターにも出て来たが、窒素原液はマイナス190度の強烈なもので瞬時に凍らせてしまう。室内温度をマイナス100度に維持すれば魚のヒレは10分で凍結、細胞も破れず解凍してもドリップも出ない。室温が99度に下がれば新しいガスが噴出、常時設定温度を維持するようになっている。冷凍庫に食品を入れれば室温は上がり、徐々に定温になって行くので細胞の維持が出来ず、解凍も工夫が必要になる。

冷凍魚や肉からドリップが出る理由は、細胞の水分が徐々に凍ると膨脹、その過程で細胞膜が破れるから解凍時にドリップとして流れ出てしまう。破れなければそうはならない。

そのメカニズムは、マイナス5度をいかに早く通過させるかにかかっている。遅ければ破れるし早ければ破れない。それにはマイナス60度以下の低温維持が条件になる。

窒素ガスは強烈な冷気をかけることで細胞膜を破らずに凍結することを可能にした。ただし身が厚いほど時間がかかるからマグロなどの大魚は完全とまでは行かずドリップは出る。薄いヒレならまったくドリップは出ず、そのまま水に浸けて解凍しても問題なく品質が保てる。つまり生の刺身とほとんど変わらないのだ。この装置を使ってヒレや刺身スライスなどを真空パック、約10分で身の中心温度マイナス5度を通過させる。通過すればあとの冷凍と保存は家庭用冷凍庫でも構わない。空気にも触れさせないから酸化も進まず変質しない。実験では、2年以上経ったサワラやヒラマサなどの刺身スライスも美味しく食べられた。非常に刺身の味にうるさい人に冷凍と告げずに食べさせて実験したが、「いやあ、さすが野人、刺身にはこだわりがある」と感激していた。2年前に刺身にして冷凍したものだと言うと目がテンになった。家の家庭用冷凍庫にはそのような刺身、カンパチやヒラメ、アオリイカにサワラなどがあり、今も実験がてら食べている。しかし人の思い込みや常識はなかなか変わらない。道理では、細胞が破れなければ味は変わらず、空気に触れなければ酸化はしない。だから時間の経った「不味い生魚」よりはるかに旨いのだが、料理人でさえ納得するのは難しかった。「冷凍ものねえ・・」と敬遠するのだ。しかし生のインドマグロは入らず、冷凍で十分満足しているのも事実だからやはり矛盾している。

冷凍技術はさらに進歩し、また新しい時代を迎えようとしている。次の原理は窒素ガスではなく、電子レンジの反対だと考えれば良い。チンすればすぐに加熱するのと同様、チンで食品が凍結する時代が来るだろう。