池袋から西武線急行で一駅なのに街の雰囲気はがらりと変わる。
駅前が再開発されたとはいえ、歩行者スレスレに走るバスにひかれそうになりながら商店街を歩くと昭和の香りがプンプンする。
大衆食堂の「辰巳軒」さん。
先月紹介した「ほかり食堂」と同じ昭和14年の創業。
もう一つ共通点があって、昭和26年に発生した「坂口安吾カレー事件」の被害者であることだ。
この事件のあらましは2月23日の記事に詳しく書いてあるので興味のある方はご覧ください。
ガラガラと引き戸を開け中に入る。
席の指定などないので好きな席に座って好きな時間を過ごせばいい。
テレビ、スポーツ新聞、マンガ本の大衆食堂3点セットもバッチリ。
この店のお客に対する姿勢はメニューを見れば一目でわかる。
サービスセットはA~C、盛合わせは①~⑤の8種類。
冷やし中華は1年中あるし揚げ物は1個から。
これだけサービス精神あふれる定食屋って他にお目にかかったことはない。
ビールと告げると黙ってキリンラガーの大ビンが置かれる。
生ビールもあるけどビンなのだ。
お通し(無料)はかっぱえびせん。
●ハムカツ+イカフライ(200円+150円)
ビールのお供はやはり揚物に限る。
ハムカツはハムの間にポテサラを包み込んである。
一度食べらたリピート間違いなしの夢ちゃんお薦めの一品。
「敵空母発見!魚雷発射!」
遊べるイカフライ。
グランドメニューは洋食の部と中華の部の2幕構成。
主なものは攻略したのでちょっと変わった攻め方をしてみよう。
ラーメンと半炒飯は2年前に食べて炒飯の美味しさが印象に残っているので今回は半じゃなく全。それもワンランク上の五目炒飯に決定。
厨房からはジャッジャッと中華鍋を振る音が心地よく響く。
●五目炒飯(750円)
おおっ!
これが炒飯!?
これまでこの店の料理には何度も度肝を抜かされてきたがこれは斬新。
それではいただきます
ラーメンも美味いということは勿論スープ不味い訳がない。
水筒に入れて持ち帰りたいほど。
しっとり系の昔ながらの炒飯。
炒飯と五目炒飯は色も違うが味も全く別。
炒飯が塩味なのに対し五目炒飯は醤油・・・いや違う
チャーシューの煮汁か!
それに具が凄い。
普通は米粒程に小さく切ることでごはんとの食感のバランスを取るのだが、そんなことはお構いなし。
具材によって切り方を変え一口ごとにいろんな食感が楽しめる。
チャーシュー、海老、タケノコ、椎茸、ナルト・・・
頂上には錦糸玉子とグリーンピースとまさに具の競演。
頭の中はベートーベンの7番のシンフォニーが流れている。
タッタカ、タッタカと付点のリズムに合わせてスプーンを運ぶ。
一気に完食し静かに手を合わせる。
いつも美味しい食事に感謝を込めて、
「ごちそうさま!」
【本日の名曲コーナー】
先週のこのコーナーと同じ曲の選択。
カルロス・クライバー指揮のバイエルン国立歌劇場管弦楽団。
このコンサートは私もチケットを買いに行ったのだが、時すでに遅しで発売と同時に完売。
私もビデオテーブに録画しているが、テレビで視た時は衝撃が体中に走った。
仕事なんかうっちゃってでもチケットを手に入れるべきだったと後悔した思い出がある。
音楽も料理も同じだが、楽譜(レシピ)がありその通りに作ればいいというものではない。
作り手の才能、技能、センスによって全く違う音楽(料理)になる。
クライバーが作る料理は決してかしこまった高級料理じゃない。
極上の大衆料理なのだ。
必死で付いていったオケの奏者はしんどかっただろうが、一生忘れられないコンサートだっただろう。
最後の音が消えた瞬間の客席の反応がそれを証明している。
【お店】 ★
・辰巳軒
・東京都練馬区石神井町3-17-20