問題

 

「この言葉から頭の二文字をとったら

 どのような言葉になりますか?」

 

試験問題用紙には「中間貯蔵施設」と

書かれている

 

何と簡単な問題なのかと、深く考えず

「貯蔵施設」と解答した

 

多くの人が同じ解答だった

すぐに採点されて答案用紙が返された

多くの人が△の採点だった

 

問題の出し方も悪いのだが

深く考えて解答しなかった多くの人

 

「永久貯蔵施設」が正解だった

中間が永久に入れ替わる、ここが考える

解答のポイントだった

 

三十年で他県に移すとする法律があるが

この汚染土を

引き受ける県などどこにもない

 

「その県が可哀想だよ」と地元民

 

最初から解っていた答えを

「中間」を入れて引き延ばそうとする

姑息な方法が透けて見える

 

三十年もすれば諦めが着くだろうとの

甘い考え方

だから、この「問題」は

その時々で変わることはない

 

百点満点の人ばかりになった

これでこの「問題」の目的は達成した

百点の裏を考える問題は

もう少し過ぎてからにしよう

 

たくさんのフレコンバッグが

あちらこちらに残っている

中間貯蔵施設に運び終わっていないのだ

 

三十年後を考えることよりも今を考える

その延長線上にあるものが

この解答だ

 

 

 

畑には物語があった

 

夕陽が土の中に射し込んでいくと

ニンジンがそれに反応して

畑が真っ赤になる

 

ジャガイモは

種芋を二つに切って、その切り口に

草木灰をまぶして植える

 

しばらくすると

ジャガイモの葉が

土の中から、ひょいと飛び出してきて

驚かせる

 

畑の籠には

野菜がいっぱい収穫されるから

それを口に入れては土のでき具合を

確かめる

 

 *

 

今は、古里の畑には物語がない

耕して

物語を作る人もいない

 

荒れた土の中を

木の根っこが素早く這いながら

あちら、こちらで

背丈を伸ばしている

 

放射能に汚染された

鍬や耕運機などは全て処分した

躊躇したものの

大きな物置から取り壊した

 

その日から、ニンジンも

ジャガイモもどこかに消えた

畑の籠は

ボロボロになってしまった

 

畑は心を閉ざしてしまったから

呼吸すら聴こえて来ない

夕陽は遠く離れて

山の方へと沈んでいく

 

 *

 

畑には物語があった

夕陽に

畑がニンジン色に染まる

夢のような物語

 

野菜の姿はどこにもない

一時帰宅の時

畑に声をかけても

心を深く閉ざしたままだ

 

思い出も薄れていく

いつの間にか

夕陽も遠ざかり

人も遠ざかったしまった

 

満月

 

 

津波の後に一度だけ

魂が水平線上に並んだ時があった

うなだれていたから

生前の姿を見ることはできなかった

灯台も驚いて

点灯している灯りを点滅させて

船に危険を知らせていた

 

その人は、耳打ちすると

すぅっと消えていった

あれは満月の日だった

誰もその光景を見た人はいない

灯台は、それからより寡黙になった

ずらりと並んだ魂の声を

聴いたからなのだろう

 

ときどき灯台は

水平線の辺りに少し長く灯りを置くが

津波の行方不明者の数は

減ることはない

この数を一人でも減らしたいと

月命日になると

海岸線の一斉捜索が行われる

 

満月の日は何回あっても

同じような光景は水平線上にはない

その日は、波のうねりは大きく

海岸線が騒がしくなる

舟の漁火が魂を鎮めるように

ポツンと海上に灯る

 

 

月命日

 

 

豊穣の海は

人の魂を掴んで離さない

 

八年間の長い留守人を

読経の声は

捜しきれないでいる

 

海を枕にしても

寒いだけだろう

眠れないでいるのではないか

 

心配することばかりだが

諦めようと背を向けることは

存在に対する背徳だ

 

家は新築した

目印は立ててある

帰って来るのを待つだけだ

 

ここでゆっくりと眠れれば

そう思って

仏壇は買い替えた

 

あの日から

八年が過ぎようとしている

 

砂浜の砂が

サラサラと読経の声となる

長い留守人を捜しているのだ

 

月命日には

魚たちは一度天上に帰るらしい

 

この日は

近海漁の舟は

鎮魂の姿勢で浜辺に並び

頭を垂れる

 

 

 疑問

 

 

隠された疑問があれば

国や県や東電

そこに答えはある筈だ

 

八年が過ぎると

立ちどまって考えることから

逃げようとする思考

 

フレコンバッグの山は

避けては通るが

感心が薄れていく

 

一Fに問題が起きると

新聞が寝起きのような記事を

選択しながら載せる

 

無造作に八年が

過ぎて来た訳ではないのだが

考える時間は

その日のうちに消えて行く

 

 *

 

そんな中で

賠償金の問題が一段落

すると、働く場所として

東電を残すべきだ

と ある被災者の言葉

 

唖然とした

家屋が荒廃し、牛が殺処分され

猪が住民のように

居座っている現実

 

立地町は

細る交付金に

国や県や東電に頭を下げる

十年もしない中での

大逆転

 

隠された疑問を

問いただせないまま

要望だけが増えていく

小さな声で

 

大きな何かが

崩れ始めている

疑問も疑問で無くなる

そんな日は

来てはならない

 

 

 

夕暮れ時になると

畑がニンジン色で真っ赤になる

夕陽が畑の土壌の中に射し込むから

ニンジンがそれに反応する

 

日の中には

ジャガイモのたくさんの目があって

土の中から、ひょいと飛び出してきては

びっくりさせる

 

夜の食卓では

畑で収穫された野菜を黙々と食べながら

土壌のでき具合を

確かめてきた

 

 *

 

今は、畑を耕す人は

誰もいない

荒れた土壌を、根っこが繋がりながら

木が背丈を伸ばしている

 

放射能に汚染された

この畑から収穫されるものは何もない

鍬や耕運機などは

全て処分した

 

もう、夕暮れ時になっても

畑がニンジン色に染まることはないし

それを見る人もいない

ジャガイモの目は石ころになった

 

 *

 

畑を耕す日は来るのだろうか

 

あの夕暮れ時の

畑がニンジン色で真っ赤になる日は?

ジャガイモの目が芽になって

収穫できる日は?

 

避難先で自宅の前の

畑の光景を思い浮かべている

それが当たり前の日常の一コマだった

写真を一枚も

残すことはなかった

 

 

 疑心

 

じいちゃんは

困難区域が解除されると

すぐに古里に戻った

ばあちゃんは

子どもたちと

何度も何度も話し合いをしている

 

じいちゃんは

嫌だ嫌だと言っていた

スマホの操作を覚えた

ばあちゃんは

覚える気がなく

スマホは電源切れのままだ

 

人がいなくて寂しいと

メッセージが

子どものスマホに入ってくる

「戻ってきたら?」

と 言うと

もう少し頑張ってみる

その内、人が増えるだろう

 

一年が過ぎて

二年目に入った

災害公営住宅に住む人は

少し増えたが

住んでみると周りの不便さに

戻って行く人もいる

 

じいちゃんも

ばあちゃんも

子どもたちも

毎日のように心の中で

葛藤をし続けている

 

原発事故で

帰還困難区域や

居住制限区域になった場所が

七年で戻れるなんて

疑心は

助長するばかりだ

 

この疑心が消える頃になると

じいちゃんは帰天し

ばあちゃんも

後を追うように帰天していく

 

仮の古里は

子どもたちが住む場所となり

孫の代になると

そこが古里になって

本当の古里が消えて行く

 

これは

寂しいことではないか

 

 疑心

 

じいちゃんは

困難区域が解除されるとすぐに古里に戻った

ばあちゃんは

子どもたちと何度も何度も話し合いをしている

 

じいちゃんは

嫌だ嫌だと言っていたスマホの操作を覚えた

ばあちゃんは

覚える気がなくスマホは電源切れのままだ

 

人がいなくて寂しいとスマホのメッセージが

子どものスマホに入ってくる

「戻ってきたら?」と言うと

もう少し頑張ってみる、その内人が増えるだろう

 

一年が過ぎて、二年目に入った

災害公営住宅に住む人は少し増えたものの

住んでみると

その不便さに戻って行く人がいる

 

じいちゃんも

ばあちゃんも

子どもたちも

毎日のように心の中では葛藤をし続けている

 

原発事故で

帰還困難区域や居住制限区域になった場所が

十年で戻れるなんて

疑心は助長するばかりだ

 

この疑心が消える頃

じいちゃんが帰天し

ばあちゃんも

後を追うように帰天していく

 

古里は

子どもたちが住む場所に変わり

孫の代になると、本当の古里が消えて行く

寂しいことではないか

 

 

 立派に

 

 

たくさんの人は帰らない

古里はがらんどう

 

この町は

立派になった物のメニューが増えた

 

町役場や災害公営住宅

工場誘致や

車道の数も

 

帰還困難区域の中を

許可書無しで通すという

六号線方式だ

 

人や二輪車は

駄目との

条件付きではあるが

 

少しずつ名前が

削り取られて行く帰還困難区域

 

これでいいのか?

と いう疑問の声は少ない

 

立派な物が並んで

工場の誘致が進んで

真新しい車道も増えて

あっと驚く、放射能の数値を

帰還の条件としている

 

たくさんの人は帰らない

古里はがらんどう

 

年間二十ミリシーベルト以下の

帰還の基準

 

健康不安を払拭させる為にも

安全・安心の

メニューが欲しい

立派でなくてもいいから

 

ましてや町村の

帰還率に

目標などがあってはならない

 

 

 本ブログに発表している作品は、ある程度出来上がっていますが、

推敲を要するものもあります。

 本プログの横文字を見ながら、あっ ここが修正しなければというものも

沢山あります。

 繰り返し、推敲しながら仕上げていく場所が、この「詩の傘」となります。

その点をご理解の上、拝読していただければ有り難く思います。

 要は私の詩の推敲の場所でもあるという事です。よろしくお願い

致します。