北国の旅の空…。
稀代の旭マニア・大瀧詠一渾身の「二次創作」が、本家を凌駕!!
「薄い綺麗な唇が、この男のきかん気を語っているようだ。」
林真理子の「RURIKO」は、女優・浅丘ルリ子を主人公に、昭和30年代の日活映画の世界を描いた大河ロマン小説。
この小説では、石原裕次郎、小林旭、石坂浩二…と浮名を流した稀代の大女優・ルリ子の半生が、ドラマティックに描かれている。中でも、ルリ子が本当に愛した男・旭の描写が実に魅力的だ。
小林旭は、1956年の日活映画「飢える魂」で俳優デビュー。
59年、主演映画「ギターを持った渡り鳥」が大ヒット。以降、浅丘を相手役にした合計8本の渡り鳥シリーズが制作され、いずれもヒット。
渡り鳥シリーズは、主題歌も小林が歌唱。
ギターを抱え、ほろ馬車の荷台に乗り、波止場から波止場へ流浪する男の姿を歌った「ギターを持った渡り鳥」「北帰行」はいずれも大ヒット。小林はマイトガイの愛称で、石原裕次郎と並ぶ「歌う」戦後映画の大スターとなった。
この渡り鳥シリーズは多くの熱狂的なファンを生み、音楽の分野では大瀧詠一が小林旭マニアとして名高い。81年のアルバム「A LONG VACATION」の大ヒット後、大滝は近現代のポップスの研究に勤しみながら、歌謡曲の歌手たちに素晴らしい楽曲を提供している。
85年の小林の124枚目(!)のシングル「熱き心に」は、そんな大滝のマイトガイ研究の集大成曲。壮大なストリングス・アレンジは北国の澄んだ大空を想起させ、小林のハイトーンボイスがたっぷり映えるよう設えてある。
大滝の楽曲はいつも盟友・松本隆が歌詞を書いているが、この曲だけは「松本の歌詞には泥臭さが足りない」と阿久悠に依頼。
「北国の旅の空 流れる雲はるか 時に人恋しく」と、なんとも雄大な旅情歌謡の大傑作が誕生!した。
映画「シン・ゴジラ」を例に取るまでもなく、志が高いマニアの二次創作は、時としてオリジナルを凌駕する。「熱き心に」は、ジャパニーズ・ポップスにおけるその一番の好例だろう。
「熱き心に」
作詞:阿久悠
作曲・編曲:大瀧詠一