それから、一週間が経った。


薩摩の本丸は、いつも通りの静かな日常を取り戻していた。庭の松は風に揺れ、縁側には柔らかな春の光が差している。だが、どこかぽっかりと空いた場所があるような気もしていた。


そんな昼下がりだった。


一通の文が届いた。


差出人を見た瞬間、ギョリイの目が丸くなる。


∈(👁️___👁️)∋✉️行光…


修行に出てから、初めての文だった。


胸の奥が少しだけきゅっとなる。

嬉しいような、少し怖いような、そんな気持ちを抱えながら、ギョリイは恐る恐る封を開けた。


今日の近侍は水心子正秀だった。

水心子は何も言わず、静かに主の様子を見守っている。



ギョリイは文を広げた。


そこに書かれていた字は──内容の丁寧さとは裏腹に、激しく乱れていた。まるで、手が震えているかのように。


『修行に行きたいなんて言い出して、面食らっただろうね。日頃酒浸りで、まともに働きもしない俺が、どの口で言うのかと。』


ギョリイは黙って続きを読む。


『でも、悪酔いから目が覚めて、酒が抜けると、いつも怖くなるんだ。この本丸も、いつかまた焼け落ちてしまうんじゃないかって。』


春の風が、縁側を通り抜けた。


紙がかすかに揺れる。


『そしてそれから逃げるように、俺はいつも酒を飲んでいた。その繰り返しだ。……俺は、この恐怖をどうにかしたいんだ。』


そこで文は一度途切れていた。


墨の跡が少し滲んでいる。


書き直そうとしたのか、迷ったのか、それは分からない。


ギョリイはしばらく黙って文を見つめていた。



∈(👁️___👁️)∋……行光


ぽつりと呟く。


その横で、水心子正秀は静かに立っていた。

何も言わない。ただ、主の背中を見守るようにそこにいる。


春の陽射しの中で、ギョリイはもう一度、文を握りしめた。


遠く離れた場所で、行光は今も戦っている。

敵とではなく、自分自身と。


それを思うと、胸の奥が少しだけ温かくなった。


∈(👁️___👁️)∋がんばれっぺ


小さく呟いたその声は、春風に乗って縁側を通り抜けていった。


水心子正秀は、そんな主の姿を優しく見守っていた。