14日の朝日新聞夕刊6面に「場外の親切『金』に結実 バス間違えたジャマイカ選手 大会スタッフに相談したら…」という見出し記事に目が留まった。心温まる出来事なので全文紹介したい。

 

4日にあった東京五輪の男子110メートル障害の準決勝の直前、ジャマイカのハンスル・パーチメント選手はバスを乗り間違えた。もう間に合わないかもしれない。だが、大会関係スタッフの女性からタクシー代を手渡され、出場できた。後日、女性を探し、感謝を伝えたパーチメント選手。「見せたいものがある」。そう言ってバッグから取り出したのは金メダルだった。

 

 ■間に合わないかも

 「音楽を聴いていた。顔を上げたら、バスを間違えたことに気づいた」。パーチメント選手が7日にインスタグラムに投稿した動画は、こんな説明から始まる。

 到着したのは、江東区の会場。自分が出場する陸上競技は新宿区の国立競技場で、行くには一度選手村に戻らなければならない。選手村に戻れば、ウォーミングアップもできず、出場もかなわないかもしれない。近くにいた大会関係スタッフの女性に相談すると、タクシー代として1万円を渡してくれた。「おかげで競技に間に合い、ウォームアップもできた」という。

 パーチメント選手は準決勝を通過。5日の決勝では13秒04の記録で優勝した。「彼女を見つけて、金メダルを見せるんだ」。間違えたバスにもう一度乗って、女性を探しに向かった。再会すると、「あなたが助けてくれたから」と言って、金メダルを見せた。そして、ジャマイカ代表のシャツを記念にプレゼントし、タクシー代を返した。この様子を撮影した動画は13日までにインスタグラムで115万回以上再生された。

 

 ■ボルトから絵文字

 タクシー代を渡したスタッフの女性は、日本とセルビアにルーツを持つティヤナさん(25)。ジャマイカ代表のシャツを着た写真に「ピッタリだった」とコメントを付けてインスタグラムに投稿すると、パーチメント選手から「ピッタリで良かった」と返信があり、さらにウサイン・ボルト選手からも絵文字で称賛するコメントが投稿された。

 ティヤナさんは、朝日新聞の取材に、「メダルを手に載せてくれた時、メダルだと認識するのに少し時間がかかって、え……となりました。まさかの金? そんなにすごい人だったの?って。ただただ驚いて、言葉が出てきませんでした」とメッセージで答えた。

 パーチメント選手に渡した1万円は自腹。「私の1万円は仕事をすればまた手に入るけど。何の選手かもわからなかったので、(彼にはこの五輪が)最初で最後の機会かもしれないと思った。彼の人生と私の1万円は重みが違うので」といい、1万円を渡すことにためらいはなかったという。

 

 大会スタッフの優しさ、親切が金メダルに繋がったわけで、ティヤナさんの善意を称えたい。

合わせてこのティヤナさんを採用した組織委員会の影の功績も称えたい。

 色んな関わりの中で数々のドラマが展開されているとつくづく思ったものだ。