僕が生き延びる上において、ウォークマンは重要だった。

 

 睡眠を奪うのはスパイ工作の一般的テクニックで、それは電波工作であろうがなかろうが関係ない。対象者を落とすために、彼らはまず睡眠を奪う。そうすれば、そのうち対象者は普通の思考が出来ないようになる。そのために、彼らは寝ている場所で物理的なノイズを出す。その音は電波で送る必要もなく、物理的な音で良い。それだけで人は寝られないようになり、いずれ思考がゆがみ出す。それがスパイ洗脳の導入段階である。

 

 このノイズの発生源は特定できることが多く、昔は僕もよく切れていた。もちろん殴ったり蹴ったりすることはなかったが、直接に抗議しに行くことは何度かあった。その中で、向こう側に本当の実行者がいることもあったが、それでもそのような抗議すら無意味である。

 

それはスパイが実行しているため、どれだけこちら側が文句を言ったところで、彼らは工作を続ける。それよりも、そのように怒りを爆発させることで理性が歪み出す方が恐い。実際のところ、ノイズを出している先に切れたところで、彼らは現場に派遣されている下位の工作員なので、工作を止める権限すら持っていない。

 

 要するに、ノイズは無視するしかない。その最善の方法はウォークマンのノイズキャンセルである。それに睡眠導入音楽を合わせだけで睡眠は確保できる。今でも夜中に何度も起こされるが、それでも理性が歪むほどの睡眠不足にはならない。そうならなければ、洗脳が難しくなる。

 

 ウォークマンと睡眠導入音楽で外部のノイズは遮蔽できる。仮に、電波でノイズ的な音を送られても、音楽が流れているのでほぼ気にならない。問題は音量である。あまり大きくすると耳を痛めてしまうため、外部の音が防げる最低限の音まで下げる必要がある。

 

 これは昼間においても同じである。音楽を流せば、外のノイズは全く気にならない。結局、問題は操作可能性にある。外のノイズは自分でコントロール出来ないので、イライラが募ってしまうが、自分自身で対抗して音を流せば、それは自分のコントロール下にあるため、全く気にならなくなる。人間はそれだけのことで感情を制御できる。

 

 我々は依然としてスパイの工作を止められていないが、電波操作に対抗する方法は幾つか存在する。