目に見えない相手と会話をした翌日か数日後、今度は実際に上の部屋から声が聞こえて来た。その声は全て自分の名前を同じように呼んでいたが、それでも、それが誰か全て判別できた。

 

 どうやら、どこまで声を識別できる能力があるかを判断するために、新しい声を採取してきて、そこで聞かせたようであった。と言うのも、その声は録音であるように感じた。録音であるかどうかを具体的に判断するのは難しいが、それは自分に対して呼びかけているというよりは、誰かに喋らされているようであった。それが単なる呼びかけであり感情がなかったことも、それが録音であると感じた根拠の1つである。

 

 彼らがこの方法を実行したのにはそれ以外にも意味があった。それまでに実際に何人かのスパイの声を聞いており、それが誰かは既に識別できていた。ここで違う声を足すことで、元々そこにいたスパイが実はスパイではなく、単なる協力者のように見える。

 

 つまり、彼らの声も録音であるように感じるか、あるいは、その録音された声の持ち主もそこで工作活動に従事しているように感じられる。そのようにして、現状の痕跡を惑わそうとしていた。ただし、自分はそれだけで相手がどのような状況にあるかを判断していたわけではないので、彼らの偽装工作に関してはうまく行かなかった。

 

 この確認の結果として、彼らは自分が正確に声を認識できているのを分かったが、一方で、自分は重要な事実に気付いた。その前に会話した声は上の部屋から聞こえてくるような類いの声ではなかった。何らかの方法で確実に直接的に脳に声が届いており、スピーカーから流れてくる声ではなかった。

 

 超音波で声を届けている可能性も疑ったが、それはあり得ないと思った。超音波で思考が届けられるかどうかは自分には分からないが、人間の耳の蝸牛の構造からすると、超音波はその奥まったところで聞こえるはずである。それは人間の音の認識が周波数に依存しており、低周波は蝸牛の手前のところで認識し、高周波は奥まったところで認識するからである。

 

 超音波は高周波であるため、それは必然的に高い音程の音になるはずであり、普通の人の声のように感じるはずがなかった。可聴域を超えると物理的に聞こえないと思うが、それが聞こえたとしても、少なくとも、誰の声かを認識することは不可能である。つまり、音声ではない別の方法で直接に脳に声を届けているはずであったが、どんな方法が採用されているのかは全く分からなかった。

 

 ただし、分からない方法が存在するということだけが確実に分かった。

 

 

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