スパイの拷問は更にきつくなっていた。精神的にも物理的にもかなり厳しい状況に陥り、自分の思考すら普通に保てない状況が毎日続いた。

 

 今から思い返すと、かなり電波操作されていたような気がする。そもそも普通の精神状態からほど遠く、また電波操作を知らなかったため、どこまで操作されていたかは分からないが、それでも不必要な妄想に支配されていたのだけは覚えている。

 

 そのような状況にはあったが、スパイになることは拒絶した。はっきりと断ったことで、清々とした気分になった。そして、これで全ての工作が終わり、普通の生活に戻れるかも知れないと思った。彼らは12月初旬のある1日を最終日と指定していたので、その先は拷問が続かないだろうと思っていた。そして、その日を境に捜査も終結するかも知れないという期待があった。

 

その夜もマンションでは非常ベルが鳴った。マンションの23階に住んでいたため、普通の時は非常ベルがなっても少し待って、鳴り続けるかを確認するようにしていたが、この時に香港に戻ってからは非常ベルが鳴る度にすぐに階段を降りることにしていた。

 

それは自分が狙われているからであり、彼らならマンション全体にも火を点けかねないと思っていた。この頃には既に自分の部屋が火事に遭ったのが諜報機関の仕業だと気付きだしており、彼らならばもっと激しい工作もできるだろうと思っていた。そして、この日もいつものように、23階から階段を降りた。

 

23階からフロントに辿りつくまでにはかなりの時間が掛かるが、外に出るといろんな国のスパイが玄関のところにいた。正直に言って、その多さに驚いた。自分が想像している以上に多くのスパイが自分の周りおり、彼らの多くが自分に対してショートコメントをして通り過ぎて行った。

 

 結局、火事も何もなく、エレベーターが使えるようになるとすぐに部屋に戻った。すると、窓の外からいろんな声が響いていた。その声は自分に向かって大きな声で叫んでおり、その中には自分の知っているスパイの声もあった。そして、「こっちへ来いよ」と叫んでいた。

 

行くだけなら大丈夫かもしれないと思って、どこから声が聞こえてくるか確認しようとしたが、いろんなところから多くの声が響いており、誰がどこにいるかは確定できなかった。そして、香港の夜の光を見ながら、全てが自分には遠い世界のように感じた。結局、それらは自分には関係のない話であり、自分には違う未来があると思いながら、その日はそのまま静かに寝た。

 

 

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