拷問が何週間も続いた後、期せずして何とか外に出られるような精神状態にまで回復してきた。しかし、拷問は依然として続いており、相変わらず厳しい環境の中にいることには変わりなかった。そして、ほとんどの時間をベッドかソファに横たわりにながら過ごすのもほぼ変わらなかった。依然として、生き延びることだけが目標であった。

 

そのような状況の中で、殺人蜂は家に入ってきた。6センチくらいのスズメバチだったが、その蜂は真っ直ぐにこちらに向かって飛んできた。その日はソファで倒れていたが、蜂がこちらに向かって来るのが分かった瞬間に隣の部屋へと逃げた。

 

 隣の部屋で一息つき、そこから対策を考えた。まずは、蜂がどのような状況にあるかを確認しようと思いドアを開けると、それは1メートルくらい先の廊下の壁に止まっていた。蜂を処理しない限り、自分はその部屋から出られないことが分かったため、たたき落とすための道具を手に部屋を出て戦うことにした。しかし、その時点ではスズメバチの姿は見当たらなかった。

 

 しかし、それは最初で最後ではなかった。それから何度もそのスズメバチは部屋に入ってきた。部屋を閉め切れば、蜂どころかどんな虫も入って来られなくなるが、そうすると室内に二酸化炭素を充満されて死んでしまうため、部屋の窓は全て開けるしかなかった。だからこそ、いろんな虫が部屋に入ってくるようになったが、そこは23階であるため、普通なら蜂どころか虫すら入って来られない。

 

実際のところ、その殺人蜂はそもそも上の部屋から飛んできた。その蜂が何度も来るうちに、どこから来るかを確認できるようになり、それが上の部屋から送り込まれていることが分かった。そして、他の虫もおそらく上の部屋から投入されていた。ただ、この殺人蜂だけは他の虫と違って、その場で対処できなかった。

 

基本的に、こちらが油断している状態のときにだけ、この殺人蜂は部屋に送り込まれた。そして、夜の暗い時間に送り込まれることはなく、どれだけ遅くても夕方であった。このスズメバチを利用する際には、確実なプロトコルと方法論が存在した。今ではそれが電波でコントロールされていたのではと疑っているが、調教だけでもそのレベルに達するのかもしれない。いずれにせよ、それが中国の諜報機関の殺人蜂であることは間違いなかった。

 

この殺人蜂とは何度も格闘した。最初の時はかみ合わなかったが、それ以降は部屋にあったゴキブリを殺すようの噴射式の殺虫剤を見つけ出し、日中は自分の手元に置いていた。昼間にうとうとしていると殺人蜂が自分を襲う体勢に入っていることが頻繁にあり、その度にスプレーを噴霧するか、スプレーのあるところまで転がるように走った。

 

 しかし、この殺人蜂は脅威的にスマートで、噴霧が始まるとすぐに逃げ出した。それは他の虫ではなかったことで、他のものはその場で対処ができたものの、この殺人蜂だけは処分できず、常に逃げられた。そして、何度目かの格闘の際に初めて逃げる場所を確認でき、それはキッチンの天井であった。キッチンの上に目隠しになっている空間があり、そこから自分の部屋と上の部屋は物理的に繋がっていた。正確に言うと、中国の諜報機関がそこに穴を開けており、蜂はその経路を通って、上の部屋へと常に逃げていた。

 

 この殺人蜂だけは中国の諜報機関がかなり重宝していた。それはこの虫が人を殺せる能力を持っているからだけでなく、自分が油断していると真っ直ぐに攻撃態勢で迫り、こちらが攻撃に転じると機微を読んで逃げ出し、なおかつ、正確に決められたルートで上の部屋まで逃げたからである。頭が良いというレベルを通り越していた。

 

それからしばらくの間は、殺虫剤を手の届くところにおいて暮す以外の方法が思いつかなかったが、最終的に解決策を発見した。窓を開けたままレースのカーテンを着けると、大きな殺人蜂はカーテンを越えられなくなった。小さな虫はその後も毎日部屋に来たが、それ以降、殺人蜂と格闘することはなくなった。

 

 

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