5 暗殺

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その頃は、中国の諜報機関の監視や脅しがきつく、家の中に籠もっていることが多かったが、最終的にCIAとのミーティングのために外に出ることを決めた。エレベーターに乗ると、よく見掛けていた老人が乗っていた。普段はニコニコしていて、仕事も引退した好々爺という感じだったが、この日は違った。

 

その人はスーツを着て、ほぼ真っ黒の出で立ちで、何かを決めたような顔をしてそこにいた。その時初めて、その人が中国のスパイの現場責任者であることを知った。だからこそ、頻繁に見掛けていたのだが、全くそうとは気づかなかった。彼は右足に障害を抱えていたが、おそらく文革のような過去の死闘の中で、そういう状態になったのだろうと思った。

 

彼が何かを決したような顔つきをしていたのはかなり気になったが、それでもいつもの道を通り、坂を下りてミーティング場所へと向かった。その道はかなり細めの路地で、歩いて中心部に出る際によく使っていたが、その日は大渋滞になっており、車は全く動いていなかった。そして、その渋滞の中にかなり目立つ黒塗りの大きな車があり、ちらっと中を覗くと、先ほどのスパイのボスが乗っていた。

 

その坂は下向きの一方通行になっていて、自分が下りている間は隣に止まっている車は全く動かず、その100メートルちょっとのブロック先の交差点でトラックが立ち往生しているのが見えた。沢山のクラクションが鳴り響いており、その交差点に近づくに従って、その立ち往生が渋滞の原因だったと分かった。

 

そして、自分は交差点に差し掛かり、そのトラックの手前を曲がった。その道は坂の途中にあり、交差点の付近では車が走る場所と人が歩く場所が離れており、歩道は車道より数メートル高いところにあり、立ち往生しているトラックが見渡せた。

 

丁度そのとき、交差点に止まっていたトラックが動き出した。と同時に、大きな爆発音が聞こえた。その日は朝から中国の諜報機関からプレッシャーをかけられて疲れており、自分はほぼ真下を見て歩いていたが、爆発音がすると同時に、トラックの方向から何かが自分に向かって飛んで来るのが見えた。それは先の尖った棒のようなもので、その爆発音のしたところから自分に向かって飛んできた。

 

その棒は確実に自分の頭に刺さる方向に飛んできており、ほぼ反射的に頭を少し上げた結果として、自分の目の前5センチくらいのところを通り過ぎていった。自分の目の前を鋭利な棒が通り過ぎて行くのがはっきりと見え、それがそのまま、自分の横にあった店にぶつかるのを目で追った。

 

物体が発射された辺りを見ると何かの装置があり、それがトラックのタイヤの前に置かれており、トラックを動かすと起動するようにできていた。それが事故でないことに気付くと同時に、顔を上げると、こちらを見ているトラックの運転手と目があった。彼が暗殺に失敗して狼狽しているのが分かった。

 

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