1 陰謀は存在する

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 陰謀は存在する。

 陰謀は昔からあり、今でもある。その形は変わったかもしれないが、陰謀自体がなくなることはない。そして、それは世界中である。それは人の性がそうさせるのかもしれない。

 シリアで起きたことを考えてみると、そこにも陰謀の影がある。シリアが内戦に陥ったのにはいろいろな要因があるが、戦闘が大きくなった最大の原因は2012年7月18日に起きた政権中枢部に対する攻撃にある。その攻撃の際にシリアの治安を指揮していた閣僚が死亡しており、その結果としてシリアの治安は更に悪化することとなった。言い方を変えると、この攻撃はその重要閣僚を殺すことによって、政権の弱体化を狙ったものである。

 これは無差別なテロではなく、政治的にピンポイントな攻撃である。内戦の延長と考えることもできるが、実際には内戦自体はこれを境に大規模化している。つまり、内線の延長というよりは内線の開始に近いものである。また、地理的にも対象的にもシリアの中心部を攻撃する作戦はこの後にはほぼ起こってない。誰かが何かの目的を持って、局所的に攻撃した結果がこの爆破事件である。

 これは間違いなく陰謀である。これが陰謀でないと言うのであれば、それこそが陰謀である。世の中は陰謀で成り立ってはいないが、陰謀をConspiracy theoryと呼んで、陰謀が存在すると信じるのは馬鹿だと言うのは更に巧妙である。なぜなら、そうすることによって真実を多くの人から遠ざけているからである。

 しかし、陰謀を主張する人たちにも問題がある。このシリアの例を考えると、政権中枢部を殺した結果として治安が悪化し、ISが登場することになる。通常の陰謀論の範囲だと政権中枢部に対する攻撃はISの支配地域を拡大させるためになる。現在時点から過去を見ると、実際に起こった結果がそうであるため、ISを強化する陰謀が存在したと言うことになる。その結論は間違った方向に行き過ぎであり、だからこそ陰謀論自体が忌避される。

 爆破の作戦を書いた人たちは、おそらく、ISの登場を意識していなかったであろう。治安が悪化すると共に政権が弱体化し、体制転換を目論んでいたと思われる。つまり、爆破と同時に支援する反政府組織が攻勢に転じ、コントロールを失った領域を拡大できると考えたはずである。しかし、実際はISが支配地域を拡大し、シリアの現状は爆破以前にも増してひどくなった。

 つまり、陰謀は必ずしも成功しない。作戦が成功する限りにおいて、一時的な効果は存在するが、その成功は必ずしも最後の結果へとは結びつかない。この場合、爆破による政権中枢部の殺害には成功しているが、その後に起こるはずであった本来的な目的が達成されたとは思えない。因果関係の連鎖はそんなに単純ではない。陰謀を企んだところで必ずしも上手く行くわけではない。

 この陰謀の本来的な目的をもう一度考えると、この作戦を立案実行した人たちは、果たしてISが登場することを期待していただろうか?それを期待していたのであれば、彼らの作戦は成功し、陰謀は初期の目標を達成したことになる。もし、期待していなかったのであれば、シリアの内戦の激化からISによる多くの殺害は、この作戦を書いた人たちの失敗によってもたらされたことになる。

 彼らの目標が何であれ、この作戦を立案実行人たちはISの登場という問題に大きな責任を負っている。陰謀を実行した人たちは作戦が失敗する可能性も前提にあるだろうが、果たしてここまでの失敗が前提の中にあって、ここまで多くの絶望がもたらされると考えていただろうか?そして、彼らはこのような失敗に対してどのような責任を取るのだろうか?少なくとも表だって、この責任が議論されることはないが、果たして、それは正しいことなのだろうか?

 陰謀は確実に世の中に存在する。そして、それは必ずしも成功するわけではなく、悲劇的な結果をもたらすこともある。それ以上に、そもそも陰謀には悪意に基づいたものが多数あり、分からないような形で多くのものがマニピュレートされており、また、多くの人が精神的にも物理的にも未来を失っている。