「既婚メス力には、イベントを祝ってはいけないと書かれていたな…」
ニコレッタ、今年はエルメスとの誕生日、クリスマス、年末とお正月を
全てスルーしている。
しかし、「メス力」が提唱した通りの大収穫。
彼の般若の笑顔、1週間に一度の寝泊り、毎日の返信など、
ラブラブした日常生活を送っている(メス力様のおかげ)
で、調子に乗って、バレンタインもスルーしてやろう、ということで。
また、メス力に投資(三百円)していた。。
「バレンタインメス力」
まだ付き合っていない二人は、イベントスルー、既婚の場合自由表現、と書かれていた。
しかし、バレンタインの前日。
「あれ?ニコレッタ、今日バレンタインじゃなかったっけ?え?違う?
日にち間違えた」
と大ボケをかましてきたエルメスに、ニコレッタはまたしても心をキューンと撃ち抜かれてしまい。
バレンタイン当日。
「チョコレートなど見るものか」
「チョコレートなど触るものか」
「チョコレートなど、食べるものか…」
という脳味噌の意思に反して、
体はとっととスーパーマーケットに向かい、
いつの間にか両手に牛乳、卵、そしてバーで二百円で買ってきた小さなチョコレートクリーム。
…体は自動的に大きなチョコレートケーキを作り始めていた。
バレンタインの日には、鍋の中を真っ黒に占めるチョコレートが、素晴らしい甘い香りを部屋中に漂わせながら、その圧倒的存在感を醸し出していた。
(これは、自分で食べるために作ったのだ)
そう、言い聞かせていた。
いつも通り、エルメスが、段ボール箱(中にはスーパーのフルーツとかさやえんどうとか入ってる)を抱えてうちにやってくる。
エルメスが部屋に入ってきたとき、そそくさとチョコレートをキッチンに隠すにこれった。(わざとらしい)
そして、それを見逃さない、エルメス。「…。」
「なにそれ、オレンジの唐揚げ?」
「あ、うん、そうそう、なんでもないよ、あまり美味しく出来上がらなかった」
で、チョコレートケーキをキッチンに隠したまま、エルメスが買ってきた夕食を一緒に食べる。
食事の間。
エルメス「…」
(あのキッチンの黒い塊が気になる…)
彼の視線は、ただひたすらキッチンに向かっていた。
そして目を離している隙に。
ササッ
キッチンに駆け込んで、黒いケーキに人差し指を突っ込んでいるエルメス。
「あ、食べちゃダメ!」
「なんでーひどいー」
「砂糖入ってないから、苦い」
慌てて蜂蜜を取り出し、上にどっぷりとかける。
で、ナプキンとフォークとナイフを綺麗に添えて、お皿にちょこんとのせて、エルメスに渡す。
そうしている間に、エルメスの友人から電話。
友「今なにしてる?」
エルメス「オレンジのあげものたべてる」
友「げ、きも。そんなの聞いたことない」
エルメス「おいしいよ、ニコレッタがつくったんだ」
友「え、今ニコレッタと一緒にいるの?電話渡してー」
ニコ「あ、もしもし?」
友「あ、ニコレッタ?僕の娘も朝5時からいつもキッチンで格闘してるんだよ〜」
ニコ「いや、インスタグラムでみたオレンジケーキが美味しそうだったので、砂糖の代わりにチョコレートいれて、上から蜂蜜かけて
応用しただけなんです」
「あ、唐揚げじゃなくて、ケーキね。今わかった、バレンタインだもんね(笑)また今度みんなで食事会いっしょにしよう 〜昨日Kと会ったんだ、Kも呼ぼう」
Kとは、エルメスの友人。最近Kとニコレッタはコンサート企画などで揉め事を起こしていた。
わがままなKが原因で、ニコレッタはブチギレていたのだったが、
ニコレッタが凄まじい勢いで怒っているのにビビって、エルメスは「もう僕は企画に参加しない!」とコンサートを放棄。
自分もブチギレすぎたか…、と少し反省していたものの、
自分がブチギレてしまったことで、Kとエルメスの友情に亀裂が入ったことに、少し罪悪感を感じていた。
自分のチョコレートが彼らの関係修復に繋がって、少し嬉しかったニコレッタだった。
棚からぼた餅、というやつか。
その後は、いつも通り朝まで一緒に過ごして。。
エルメスを抱きしめながら寝ていると、夢の中でまたエルメスを抱きしめながら寝てしまっていたので、
朝起きたときに、夢と現実が全てごっちゃになってしまっていた。。
あれ?どっちが本物のエルメス??