法テラスが聖域であることが公式に承認されました。 | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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かねて、法テラス北九州が、小倉駅前でティッシュ様の物品を配布していたことが、
日弁連の定める広告規定に違反するのではないか、との疑問を抱いたことをこの
ブログでもご紹介させていただきました。

そして、ちょっとバタバタしていたのですが、合間をみて、弁護士会宛に、正式な調
査申入書を提出し、広告規定違反について調査と整理をお願いしました。
その申立書の本文は以下のとおりです。

(申入れの趣旨)
1 本年4月7日、JR小倉駅南口ペデストリアンデッキ上で行われていた、法テラスによるティッシュ様物品とビラ配りについて、弁護士広告規定(以下「広告規定」という。)ないし「弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する運用指針(平成22年11月17日理事会議決、以下「指針」)に違反する可能性があると疑われることから、その事実関係の調査を求めるとともに、当該行為の広告規定ないし指針に違反するか否かについてご判断を仰ぎたい。
2 仮に上記行為が広告規定・指針に反しないとする場合、同様の行為を、法テラスと無関係の一般の法律事務所が行うことが、広告規定ないし指針に違反するか否かについても、併せてご教示賜りたい。

(申入れの理由)
1 事実関係
  本年4月7日、JR小倉駅南口ペデストリアンデッキ上で、法テラスの幟旗を立てた、法テラス関係者(弁護士かどうかは不明であるが、報道によると、「弁護士等6名」とのことであった)が、疎明資料3-4ないし3-5に映っている、事件勧誘用のリーフレット及びティッシュ様の物品等数点を、一括して封入したものを、不特定多数の通行人に配布していた。

2 問題となりうる点
 (1) 広告規定(疎明資料1)第3条7号「弁護士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」の該当性。
 (2) ティッシュの配布につき、広告規定(疎明資料1)7条(有価物供与禁止)該当性。

3 当職の見解
 (1) 上記問題(1)について
 屋外、それも不特定多数の公衆が集散する駅前でのビラ配布については、同指針(疎明資料2)の3「(5) 屋内または屋外で広告物を配布する行為」に記載されている「不特定多数の人たちが出入りする屋内または街頭、駅頭、道路等の屋外で通行人等不特定多数の人に広告物を配布する行為は、弁護士の品位又は信用を損なうおそれがあると解される場合がある」と紹介されていることとの関係で、問題となりうるところである。
これを本件について検討すると、本件がその配布物(疎明資料3-4、3-5)からして、事件勧誘を目的とすることが明白であることからして、市民をして弁護士がいわゆる仕事あさりに走っていると思わしめる可能性がある。特に昨今、弁護士の窮状に関する報道が頻繁に行われるようになった世情下においては、市民をしてそのように思わしめる可能性は昔に比べて高くなったと見るのが自然であり、このような市民目線に立った場合、本件のビラ等配布については、弁護士の品位又は信用を損なうおそれがあると見るべき余地がある。
   仮に、法テラスではない一般の法律事務所が、事件勧誘を目的として、同様のビラ配布を駅頭で行った場合も同様に解されると思われるが、法テラスだからこれが免責されるということはないように思われる。なぜならば、法テラスと言っても、市民から見れば、そこには弁護士がおり、弁護士が事件処理をするという点に顧客誘引力がある以上、一般の法律事務所と何ら差異がないからである。
   よって、上記「1 事実関係」記載の行為は、広告規定(疎明資料1)第3条7号に抵触すると思料する。

 (2) 上記問題(2)について
   指針(疎明資料2)の第6に示されているが、ポイントになるのは「社会的儀礼の範囲を超える有価物等の供与」といえるか、もっといえば、供与する当事者の関係、有価物等を供与する目的、供与する時期、供与する有価物等の相当性といった点から総合的に判断される、ということになっている。
   これを順次検討すると、
  ア 供与する当事者の関係…不特定多数の知らない人
  イ 目的…事件勧誘
  ウ 供与時期…特に何らかの記念といったタイミングにて配られているわけではない
  エ 有価物等の相当性…ティッシュだとするとそれほど高価なものではない

    これらを総合的に勘案する。
確かに、ティッシュというそれほど価値の大きくないものの配布ではあるとはいえど、これが、例えば何らかの記念ノベルティといった意味付けをもって配布されているものではなく、ただ、リーフレットなどとともに配布されている態様を勘案するならば、これは事件勧誘のための手段であり、かつ、単にリーフレットを配布するだけでは受領率が悪いことから、受け取り手が欲しくなるティッシュを封入することにより、受領率を上昇させるための手段として使われているものと推測する。そして、受領率を上昇させるのは、法テラスという「法律事務所」の存在を、通りゆく市民にアピールするために、本件ビラ等の配布の目的、すなわち事件勧誘の実効性を高めることをその目的とするものである。
ましてや、その目的に基づくビラ等配布が前記「 (1) 上記問題(1)について」末尾にて述べたように、広告規定(疎明資料1)第3条7号に抵触する態様のものであることからすれば、これが「社会的儀礼の範囲」に収まるものとは到底いうことができない。
よって、上記「1 事実関係」記載の行為は、広告規定(疎明資料1)7条(有価物供与禁止)に抵触すると思料する。

4 その他の問題意識
仮に、上記「1 事実関係」記載の行為が、法テラスなら許されるがそれ以外の一般の法律事務所については許されない、ということであれば、当該広告規定及び運用指針が、独禁法8条4号及びガイドライン(http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/jigyoshadantai.html#cmsD28)との関係で検討を要することになるのではないかと思われるので、仮にそうした結論に至った場合は、この点についての検討を別途要することになると思われる。
  もっとも、弁護士の事業は、営利に見えても、すべて公益のはずであるから、上記ガイドライン7-6(ガイドライン除外)との関係でも、法テラスを「公益」と見るのであれば、それ以外の一般の法律事務所いえども原則すべて「公益」に該当し、ガイドラインから除外されると考えないと、整合が取れないのではないかと思料する。
  以上の問題意識の下、上記「1 事実関係」の行為について、会としてどのような対応が考えられるのか、及び、仮に同様の行為を法テラス以外の一般の法律事務所が行った場合も、法テラスと同じ対応になるのか、この機会に整理しておきたく、本件申入れに至った。
以 上
疎 明 資 料
1 広告規定写し
2 指針写し
3 ビラ配りの様子に関する下記URL上の動画からのキャプチャ画像
http://www.nhk.or.jp/kitakyushu/lnews/5023442231.html?t=1397180606656

で、弁護士会からは、下記の通りの回答書をいただきました。



この中で、私が納得していないのは
「リーフレット等を配布しているのは、法テラス福岡地方事務所北九州支部の横光支部長と思われますが、同支部長がご自分やスタッフ弁護士の弁護士業務のために事件勧誘目的で広告しているものとは認められません。」
という点、及び
「法テラスは、総合法律支援事業を業務とするものであり、法律相談や法的処理は弁護士等の専門職が行うことからも、法テラスの一般的な広報が広告規定等に抵触するという問題はない」
というくだりです。

この、弁護士会回答のロジックの柱は、要するに
「法テラスの役割は「総合法律支援事業」である。法律事務所とは違う。(だから、広告規定の適用対象ではない。)」
という点だと理解します。

もっと詳しく言うと、
命題A 「法テラス」と、「法テラスの運営する法律事務所」はまったく別物である。
命題B そして、法テラスの役割は上記の通り「総合法律支援事業」である。
命題C だから、法テラスのスタッフがティッシュ配り(などの広告)をしていても、スタッフ弁護士の弁護士業務のために事件勧誘目的で広告しているものとは認められない
ということなのだろうと思います。

しかしながら、自分は、以下のように考えます。
命題Aについて…「法テラス」といわれて、一般の人(弁護士でさえ)が連想するのは、「中に弁護士もいる法律事務所の一種」であって、すなわち「法テラスの運営する法律事務所」と峻別して考えられることはないであろうという反論が成り立ちえます。この広告規定は、「弁護士の品位を害する」ことを防止することを趣旨とした規定ですから、一般人をしてそのように思わしめるようなものであれば、規制対象に含まれるべきものでありますから、「法テラス」と「法テラスの中にある法律事務所」が一般人から見て峻別されていない以上、規制対象に含まれると考えるのが、この規定の趣旨であるはずです。
命題B、Cについて…前記の、私の理屈に依拠すれば、「法テラス」=「法テラスの中にある法律事務所」はイコールということになりますので、その事件勧誘は、「法テラスの中にある法律事務所」の事件勧誘の目的が含まれている、と見るべきである。

また、法テラスというのは、「法テラスの中にある法律事務所」の弁護士(スタッフ弁護士、以下「スタ弁」)だけではなく、契約している弁護士(一般弁護士)も、その受任した事件の費用立て替えのために利用されるものです。
しかしながら、その費用は、一般的な報酬基準に比べ非常に低廉に設定されており、この事件が一定割合を超えると、独立した事務所の維持は不可能であろうと思われますし、法テラスを利用することのできない一般的な報酬基準を支払わざるをえない依頼者との間での不均衡が著しいといえます。
そのような法テラスへの勧誘行為は、弁護士にとっては、喩えて言うならば、普通に商売していたところに突然隣に、国の資本で作られた国営企業がやってきて

「お前のところのお客は、ウチが大資本を用いてビラを撒くなどして、うちが独占させてもらう。そして、お前らには、ウチが設定した格安価格でのみ下請けさせてやる」

「ウチは聖域だ。広告規定など適用されない。ワハハ。お前らはちゃんと広告規定に従って、控えめな広告だけしてろよ」

と言われているのと同じで、そんなのは、自由競争原理の中で事業を営んでいる我々一般弁護士にとって、到底承服できかねる問題であります。

法テラスに関する問題意識の多くはこの部分にあるといって過言ではなく、弁護士の自由競争を大幅に歪める、反競争的な問題といえるでしょう。

ここから先は、独禁法上の優越的地位濫用や不当廉売といった問題、また、上記弁護士会回答によると、その「国営企業」がやることは、弁護士会のルールである広告規定の対象ではないから好き勝手やって良いが、お前ら一般事務所は広告規定に服せということなので、事業者団体による不当な差別扱いであって、事業者団体ガイドライン第2-8-(3)との関係が問題にならざるを得ない、と考えます。

そこで、当職としましては、いつになるかわかりませんが、仕事が落ち着いた合間を見計らって、法テラスの各種行為や、今回の件を契機に固まったと思われる広告規定の適用関係に関して、独占禁止法上のアプローチの可否について検討する予定です。

ともあれ、我々と同じことをしている法テラスが、日弁連の定めた広告規定の適用範囲外(聖域)であるということが明確になったものと理解できましたので、私のような一般弁護士は、この「聖域」に害されぬように注意しながら、日々の業務を粛々と進めていく必要があるのだろう、と思います。