「ねえ、入江くん。最近異世界って流行ってるじゃない」と寝ようとベッドに入った瞬間に声をかけられ、思わず動きが停止した。


「お前・・・48にもなって何を言ってるんだ!?」と返事ではなく、琴子の頭をつい心配してしまった。


「いや、あたしが行きたいんじゃなくてね」と言われても、そもそもそういう心配はしていない。


「まあ流行っているな。患者にもそういう考えの子が結構居て、相槌を打つ事もあるから」と俺が言うと、琴子は耐えられないとばかりに「うふふ」と変な笑い声をもらした。


「これでも11人の子持ちの父親だからな」と隣に寝ている真琴の頭を撫でながら伝えると、琴子は「分かってるってば」と同じく真琴の頭を撫でだした。


両親に頭を撫でられている真琴はぐっすりで、ピクリともしない。


こういう日は・・・と思うのだが、察しの悪い琴子は異世界の話から戻ろうとはしなかった。


「ほら、琴音にせがまれてあたしの携帯に異世界のやつ?入れたじゃない。毎日通知が来るからちょっとやってみたんだよね。そしたらさぁ・・・」と琴子の顔色が悪くなる。


スマホのアプリでも消してしまったのだろうか!?


「あたしってバカなのね。入江くんっぽい子に勉強教えてもらおうとしたら、物凄くバカにされたわ」と言いながら思い切り溜息をついた。


・・・言いたくはないが、身に覚えはある!!


「ハマるなよ」と苦言を呈すると、琴子は「あたしは本物の方がいいもん」と48とは思えない可愛らしさを発揮する。


そのままの流れに乗りたい俺と、琴子の天然が錯綜するのは最早日常。


真ん中に真琴という天の川があるので、中々にその領域を超えられないでいる。


特に娘が妊娠中だと尚更・・・。


「困った事に、入江くんに似たキャラがいっぱいいるのよ。一番押しの俺様王子様でしょ、勉強で常にトップな宰相の息子、それに寡黙な魔導士。後は天才的な学校の先生」


・・・お前、何だかんだ全部俺に見立てるよな。


「あと、攻略する気がない幼馴染は金ちゃんに似てるかな!? それと馬が合わない義弟は裕樹くんね」と言われ、思わず顔をしかめた。


「これに須藤さんが居たら、ほぼお前の独身時代と一緒だな」とうっかり口を滑らすと、存在を忘れてた鬱陶しい騎士が須藤さんっぽいとの事。


「ほら、あたしにはストーカーしなかっ・・・あれ?松本姉攻略の為によく使われてたような?」と今更な事を思い出して怒っている。


「くだらない事言ってないで、寝ろ」と先にベッドに寝転がると、琴子が「分かってるよー。明日もあるし・・・」と言いながら真琴の隣にもぞもぞと潜った。


親子なのにしぐさが似ていて変に可笑しくなってしまう。


「夢くらいは・・・幸せにな」と俺が電気を消すと、琴子は「現実の方が幸せだもん」と可愛い事を言う。


異世界になんか行かせてたまるか。


やっぱり俺は、今日も天の川を軽々と超え、乙女ならぬ織姫な妻の元にたどり着いた。

 

* * *

最近の読書傾向が、悪役令嬢が主役の異世界転生ものです。

パーティーでみんなの前でざまぁする王子様という超絶俺様のどこが良いのだろうかというツッコミが好きすぎて、帰ってこれなくなってます。

それらを読むたびに、イタキスの結婚前シーンが頭をよぎるのは私だけでしょうか!?

現実でやりきった入江くん、すごすぎるわ(漫画だけど)