<白い壁:第一章・・・38>
受付に飛び込んだときに、目の端にまゆこさんの後ろ姿が見えた気がした。
汗をハンカチでぬぐいながら、問診票を書き、提出する。
まだ汗がひかない。
ハンカチでパタパタと自分に風を送っているうちに、
だんだんと室内の気温に体が慣れてきたのか、汗がひいてきた。
メイクも落ちてるかもしれないな。
トイレに立って、鏡を見て少し驚く。
明るい場所で見る、自分の姿・・・
崩れたメイクに適当な服装。
家を出るときは「これでいいや」と思ったものが、
全て恥ずかしくなってきてしまった。
とりあえずメイクだけでも・・・と手早く直し、待合室に戻る。
戻ってすぐに名前を呼ばれ、診察室に向かった。
「いかがですか?」
にこやかに医師が聞く。
「何もしたくない気分です。今日もなんとか来たという感じで・・・」
「それは脳がお休みをしているからなんですよ。
薬が効いている証拠とも言えますし。
決して緑川さんのせいではないので、気にしないでいいんですよ」
医師は亮子のカルテに何かを書き付けて続けた。
「他に困っていることなどありますか?」
「他に・・・」
あの生活全てが困っていることだが、脳のせいであれば
仕方ないとも思える。
「特にありません。むしろ仕事をしなくていい生活に慣れてきました」
「そうですか。それは良かった」
医師はにっこりと笑って、またカルテに書き付けた。
困ってることと言っても、それが脳のせいであれば自分にはどうしようもない。
最後に薬の確認をして、5分ほどで診察室を出た。
待合室にまゆこがいた。
今日はサングラスもせず、いつもおろしている髪をアップにしている。
メイクも薄いながらもしているようだ。
ワンピースとあっていてとても素敵。
女性としても、見とれてしまう美しさがあった。
周りの男性もまゆこをちらちらと見ているのがわかった。
まゆこはまだこっちに気がついていない。
亮子は自分の服装やメイク、走って乱れた髪を恥ずかしく思った。
これでは、まゆこと並べば、自分は引き立て役になってしまう。
亮子は、そっと、まゆこと離れた席に座った。
まるでまゆこから隠れるように。
「木内さ~ん」
まゆこが呼ばれて受付に言った。
いつもより背中も伸びて、自信のありそうな歩き方のような気がした。
まゆこの変わりように、亮子は驚くと同時に、自分と比較し落胆した。
今、2人は逆転しようとしてる。
そんな気がしてならなかった。
(第一章 おわり)