<白い壁:第二章・・・1>
「今日は珍しくお化粧してらっしゃるんですね」
まゆこに医師はそう話しかけた。
少し気恥ずかしくなったまゆこは、
小さな声で「えぇ」と応えた。
「どんな心境の変化があったのかわかりませんが、
女性がお化粧をすることは悪いことではありませんね。
とても似合っていますよ」
医師もまゆこの変身を好意的に見てくれていた。
思い切ってやってみてよかった・・・まゆこは心の中でそう思った。
今日なら亮子さんとも、もっとちゃんと話ができるかもしれない。
今日ならお茶に誘われても断ったりしない。
簡単に診察を終え、まゆこは待合室に戻り、
すぐに会計になるので、受付に近いソファに腰掛けた。
しばらくして、誰かがまた診察室から出てきた。
でもさすがに顔を上げて、亮子かどうか確認する勇気はなかった。
その人物はまゆこから一番遠くの席に腰掛けたようだ。
亮子ではないのかもしれない。
「木内さ~ん」
会計によばれたまゆこは、お財布をバッグから出しながら立ち上がった。
なんとなく周囲の視線を感じたが、それは自信過剰か。
いくらメイクをしても、私は私。
そんなに対して変わりはないわ。
まゆこは、自分が周囲から受けている羨望の眼差しに気づかず、
また、自分がどれほどきれいになったかわかっていなかった。
珍しくメイクをして、髪を結んでいるだけで、
まゆこにとっては大変身のつもりでいたが、
もちろんそれは、自分がそう思っているだけで、
受付担当や医師の言葉は、そんなまゆこの変化に
たまたま気づいたから、御世辞を言っているだけだと思っていた。
まゆこは会計を済ませると、いつもの調剤薬局に向かった。
亮子を待合室で探す必要はない。
きっと薬局で会うだろう・・・そう思ったからだ。
クリニックのビルを出て、日傘を開いた時に気がついた。
サングラスをしていない。
いつもなら、医師と薬剤師と話すとき以外ははずさないのに。
私、そんなに気持ちが大きくなってるのかしら・・・
まゆこはくすりと笑うと、サングラスをバッグから出して掛けた。
いつもなら重たい足元も少し軽く感じた。
これもメイクのせい?
髪型のせい?
なんだか少し楽しくなってきたわ。
まゆこは魔法にかけられたような気分になった。
『これも亮子さんから受けた影響のおかげだわ』
亮子に会ったら、お礼を言おうと思ったまゆこだった。
(つづく)