血糖、血圧の改善効果が明らかに
研究の背景:Breaking up prolonged sittingが合言葉
(座り続けない)
昨年、米国糖尿病学会(ADA)と
欧州糖尿病学会(EASD)が
2型糖尿病の血糖管理についての
合同レポートを4年ぶりに改訂しました1)。
24時間の身体活動の重要性
を示す図表が掲載。
(図1、表1)
図1:24時間の身体活動や睡眠の重要性
表1:身体活動や睡眠が2型糖尿病患者に与える影響
今年になり、米国スポーツ医学会の機関誌に、
Breaking up prolonged sitting(座り続けない)
をタイトルとした論文が掲載されました2)。
健常者を対象に、坐位を
1)30分ごとに低強度での歩行
(時速3.2km)と
2)60分ごとに低強度での歩行で中断した場合と、
3)坐位を1分で中断した場合と
4)5分で中断した場合
の4通りの坐位を中断する方法が
血糖などに与える影響を、
坐位を継続した場合と比較しました。
米・ニューヨークのコロンビア大学のグループが実施。
8時間の坐位維持を対照として坐位中断の効果を検証
【方法】
45歳以上の坐位時間の長い健常者を広告で集め、
加速度計付き活動量計で
普段の身体活動を7日間にわたって測定され、
1日8時間以上の無活動の時間があり、
そのうちの50%以上が30分以上持続した
坐位であることをもって被験者として登録。
低強度の歩行とは時速3.2km
被験者には、1日ずつ
以下の5つのパターンの活動を実施。
① 坐位を8時間保持
② 30分の坐位ごとに1分の低強度での歩行
③ 30分の坐位ごとに5分の低強度での歩行
④ 60分の坐位ごとに1分の低強度での歩行
⑤ 60分の坐位ごとに5分の低強度での歩行
活動パターンの順番はランダムです。
条件を一定にするため、
被験者は試験日の48時間前から
カフェイン、アルコール、ビタミン、サプリメント
の摂取が禁じられ、
日常生活以上の強度を持つ運動も禁止。
また、なんらかの薬剤を内服している場合には、
全ていつも通りに内服してもらっています。
各試験日では、排泄の後、
下記の流れで朝食摂取開始から8時間を過ごす。
① 体重計量
② 5分間の坐位安静
③ 20分での標準朝食摂取
④ 5パターンのいずれかでの活動
⑤ 朝食摂取開始4時間後に標準昼食摂取
⑥ 5パターンのいずれかでの活動
坐位の間、排泄のために立ち上がること、
坐位を保ちながらの読書、電話、
コンピュータ作業は許可。
主要測定項目の血糖はリブレ
(持続グルコース測定器)で測定し、
1時間ごとに血圧と疲労感
開始時、4時間後、8時間後の気分、
認知について調べています。
図2:アウトカムの測定タイミング
25人の応募があり、11人が被験者に適合。
(57.0±8.6歳、男性54.5%、
白人36.3%、黒人36.3%、BMI 28.3±6.1)
2回の食事摂取に伴う全時間の血糖値の総和を
坐位8時間と比較すると、
有意に差異があったのは
30分ごとに5分の坐位中断だけでしたが、
他のパターンでも血糖の総和は
低下しました(図3)。
図3:8時間での血糖変動(左)と対照との血糖値の総和の違い(右)
とても興味深いことは、
30分に1分の坐位中断の方が、
60分に5分の坐位中断よりも
血糖の低下が大きかったこと。
また、収縮期血圧は、
どの坐位中断法でも有意に低下しましたが、
驚くべきことに最も下げていたのは
60分に1分の坐位中断でした。
(5.2±1.4mmHg)
その次が30分に5分の坐位中断で、
(4.3±1.4mmHg)
血圧に対する影響にも
運動の量が多ければ有効といった
法則は出ませんでした。
一方、拡張期血圧はどの坐位中断法でも
目立った血圧の低下は認めらず(表2)。
表2:さまざまな坐位中断法の血圧に対する影響
(対照:坐位8時間継続との差異、mmHg)
どの坐位中断法でも疲労感は軽減していました(表3)。
表3:8時間後におけるさまざまな坐位中断法の
アウトカム(疲労感、気分の悪化、認知)に
対する影響(平均値)
気分の悪化はどの坐位中断法でも有意に改善しており、
認知機能には有意差は付かなかったものの、
どの坐位中断法でも改善する傾向でした(表3)。
【コメント】
血糖、血圧の改善には座位中断の頻度の方が重要
30分ごとに1分、坐位を中断する。
歩行量(運動量)が大切なのではなく、
坐位中断の頻度の方が血糖の改善に大切。
血圧の改善に関しては、
どんな形であれ座り続けないことが大切。
同様のデータは英・ケンブリッジ大学からも
報告されており、
2型糖尿病患者では
(中強度以上の強度の)運動時間の長さよりも、
坐位時間の短さの方が
心血管リスクの低下と強く関連していた
(Diabetologia 2014; 57: 73-82)。
電動 昇降式デスクを使ってする
デスクワークを勧めたい。
実際、採用している会社や個人が増えてきています。
普段の運動も大事、じっとしないことも大事
運動の大切さも確認しておきたい。
実は、ノルウェー科学技術大学らの報告では、
坐位時間の長さが心血管疾患リスクに
関わっているのは
運動体力の低い人と中程度の人だけ。
運動体力の高い人では
坐位時間の長さは関わっていなかった。
さらに
「坐位時間の短い運動体力の低い人」と
「坐位時間の長い運動体力が中程度の人」では、
圧倒的に後者の方が心血管疾患のリスクが低い。
(Med Sci Sports Exerc 2016; 48: 625-632)
そうした意味では、
普段からのきちんとした運動で
運動体力を高めることが一番大切で、
その上で坐位時間を短くすることも大切。
(じっとしていない)
【引用文献】