あいつがいれば | 防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

「防浪提に抱かれて磯の香りも生き生きと」
田老一小校歌の歌い出しです
津波が来ても二重の防浪提が守ってくれると思っていました
津波はその防浪提までも破壊して、ふるさとを壊滅さた
それでも、やっぱり海は麗しいし、川は清い

 ウニを陸上水槽で蓄養して

 肥えさせて

 ウニが品薄な時期に

 最高の身入りの状態で出荷する

 

 試験段階では

 ほぼ目標を達成しました

 私が最終的に目指しているのは

 漁業者が水槽を数個ずつ管理してウニを蓄養して

 収入が無い時期に

 現金収入を得られること

 

 が

 

 経験のない人に

 「ウニの蓄養できますよ」

 ったってやりませんよね普通

 「お前は経験があるからできたんだろ」

 って

 

 私ができたからやってみて

 

 じゃなくて

 「漁師の○○さんがやってみたら儲かったみたい」

 ってなれば

 興味を持って

 「やってみよう」

 という人が出てくるかもしれません

 

 

 陸上に置いた水槽で閉鎖循環

 つまり同じ水が回ってる

 そんなに難しいことはやってないんですが

 さすがに最低限の知識は必要になります

 

 基本システムは熱帯魚を飼育するモノと一緒なんです

 熱帯魚を飼ったことがある人ならたぶんできるんじゃないかと

 

 

 今から25年ぐらい前でしょうか

 熱帯魚を飼うのが流行ってまして

 私の友人らもデイスカスを繁殖させるんだといって

 家の中にデカい水槽を何台も置いて奧さんに睨まれていたものです

 

 車屋のN、ラーメン屋のH、漁師のY

 PHだDOだ導電率だと水質を調べまくって

 「PHメーターはどこのメーカーが良い?」

 「はあ?PHメーター買うの?」

 「あとDOメータとー導電率計も」

 「はあっ?導電率?そんなことまで調べてどうすんの?」

 「デイスカスの稚魚が成長しねえんだよ」

 趣味の世界は恐ろしいなあって思ったものです

 

 私も熱帯魚飼ってましたけど

 ずぼらな私の目標は完全水槽

 魚が出すアンモニアを

 水草が成長することによってそれを吸収する

 

 水を変えなくても、魚も水草もずっと元気

 実際半年以上水換しませんでしたし

 

 毎日大量の水替えを行う友人らからは「せっこぎ」だってバカにされてましたが(笑)

 

 実は頻繁に水替えして魚だけ飼うのは大して難しいことじゃない

 水換えしないで魚と植物を同時に飼うのって高度な技術を要する

 

 今回のウニ蓄養にもその時の経験が生きてるんです

 

 当時、私は水産庁の下部組織で魚類の飼育を仕事にしていたので

 言ってみればプロですね(はしくれですけど)

 せっせと水換えしてる友人らを

 (まあ、せいぜい頑張りたまえ)

 ぐらいな気持ちで見てたんですね

 

 その後、漁協に就職しまして

 ある時

 仕事の用があって同級生の漁業者の家に行ったんです

 

 ドアを開けて驚愕しましたね

 横幅2m以上あろうかというバカでかい水槽にビッシリと水草が繁茂して

 その間を熱帯魚がゆったりと泳いでる

 雑誌に出てくるような水槽です

 

 デイスカスやアロワナを飼ってても別に驚かないですけど

 何種類もの水草と熱帯魚をバランスさせてる技術には心底驚きました

 

 Nという漁業者なんですが

 熱帯魚をやってるなんて聞いたこともない

 「おい、すげえなこの水槽」

 って言ったら

 「趣味だ。たいしたことねえ」

 って笑ってました

 

 ま、魚はおいといて、水草の密度やタイプの違う水草をまんべんなく成長させてる技術は尋常じゃない

 「もしかしてCo2とか使ってる?」

 「さすがにプロだな、よく解ったな」(笑)

 まさかCo2まで駆使してるとは・・・・

 

 アイツならウニの蓄養も簡単にやってのけるでしょう

 私よりずっと良い結果を出すかも知れない

 

 そうすれば他の漁業者にも普及していくでしょう

 

 

 ウニ蓄養の普及を考える時

 Nならやれるだろうなあ

 あいつやってくれねえかなあ

 っていつも思うんです

 

 けど

 

 2011年3月11日の午後

 彼は突然いなくなってしまいました

 

 


農林水産ランキング