今年の日本映画は時代劇がちょっとした流行ですが、時代劇の老舗・東映が満を持して放つのがこの作品。監督はベテラン・佐藤純彌。70~80年代の(底抜け)大作の数々や『北京原人』あたりの怪作、そして『新幹線大爆破』などの傑作を生んだ人。この人の監督作品と聞くと、私なんぞはなぜか(いろんな意味で)頬が緩んでしまいます。あ、『男たちの大和』もか。


で、今回のネタは日本史の教科書にも出てくる幕末の事件。同じ題材を、我らが岡本喜八っつぁんも『侍』で扱ってます。『大和』の時の実物大大和のオープンセットと同じような狙いなのか、今回は桜田門周辺を再現した広大なオープンセットを作ったのが“売り”のようですが、大和に比べると何だか地味ですな(笑)。ちなみに、『侍』では予算倹約のため、喜八っつぁんと名カメラマンの村井博が、事前に絵コンテなどで詳細に段取りを決め、アングルによって不要な部分をどんどん削っていき、5000万円(1965年当時)かかると言われた桜田門周辺のセットの費用を1500万に抑えたという、豪快な節約話(?)があります。


話を戻すと、その“売り”が存分に画面に登場する桜田門外の変が、何と上映開始30数分でいきなり始まってしまいア然。え?あと1時間半(上映時間137分)もこれが続くの?と思っていたら、井伊大老暗殺に参加した水戸藩士たちのその後(というより末路)をじっくりと描くことに重点を置いた作りでした。要は、「一瞬でカタがついた」という史実に基づいてタイトルバックの冒頭5分間でOK牧場の決闘をあっさりと描き、その後延々と続いたアープ兄弟&ドク・ホリデー対クラントン一家の因縁の抗争を静かな殺気を漂わせながら描いた『墓石と決闘』みたいなもんです(逆に分かりにくい例えだな)。『墓石』の方はジョン・スタージェスならではの見せ場てんこ盛りサービス映画になっていましたが、こちらは飽くまでも“末路”。暗殺には成功したものの、その後に共闘を誓った藩からは裏切られ、身内の水戸藩も立場上彼らを追うことに…という、まさに八方塞がりの状況の中を迷走する事件の参加者たちの姿が描かれます。


で、この映画の主人公は、暗殺の指揮を現場で執った関鉄之介。扮する大沢たかおは百歩譲って良しとしても、妻=ハセキョー、息子=子ども店長というのが、何だかなあ…。同じ子役(出身)でも、『ALWAYS』などの実力派・須賀健太君も出てますが、出番が少なくてもったいないなあ。


関に囲われ、事件の後に拷問を受ける愛人に扮しているのが、『パッチギ!』の不遇の続編で沢尻エリカの後釜という(当時としては)究極の貧乏クジを引いた中村ゆり。雰囲気的にはなかなか良かったですな。彼女の拷問シーンを観て、「そう言えば、東映はこんな時代劇も撮ってたよなあ」と、石井輝男の異常性愛シリーズを思い出しながら感慨に耽ってしまいました(恥)。


もう少し短くてもよかったかなとも思いますが、不器用なまでに真面目に撮っているのが佐藤監督らしい力作です。