もうひとつの仕事。母の一言からはじまった。
"私も最後のお別れをしたい"
祖父の訃報を伝えると、母がわたしに言ってきた。
しれっと葬式に来てしまえばよかったのだけれど、それは父が許さないだろうし、
後々面倒なことになるかもしれない。
父は今も知らないと思うが、
離婚後、母が作った料理をわたしが作ったと偽り、祖父に届けたことがあった。
祖父は母の作った煮魚が好きだった。
お礼に手紙を預かり、母に渡した。
「やっぱり煮物は一番上手。美味しかった。ありがとう」
こんな事が書かれていたと思う。
母はこの手紙をいつまでも持っていた。
父にわからなければいい。知られなければ大丈夫だとわたしは思った。
だからわたしは通夜の日、自宅に来た葬儀社の人にこっそりと、誰にも知られないようにお願いをした。
離婚した母が、最後に祖父とお別れをしたい。誰にも知られずその時間を作って欲しい。
続く。