今日の一曲!OGRE YOU ASSHOLE「ネクタイ」 | A Flood of Music

今日の一曲!OGRE YOU ASSHOLE「ネクタイ」

 今回の「今日の一曲!」は、OGRE YOU ASSHOLEの「ネクタイ」(2009)です。2ndシングル『ピンホール』c/w曲。

ピンホールピンホール
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 当ブログ上にオウガの単独記事を立てるのもこれで七度目となるため、音楽性やアーティスト像に関することは過去記事に丸投げするとして、早速「ネクタイ」のレビューに入ります。


 4thアルバムより前の比較的わかりやすかった頃のナンバーとはいえ、本曲から受け取れるメッセージは殊更にストレートです。…と言いつつ、僕が読み違えているだけ、或いは表層の理解に騙されているだけの可能性もありますが、好き勝手に解釈します。歌詞内容を端的に纏めるならば、①「日本人的な精神性(主に否定的に映るもの)への皮肉」から出発して、②「そこからの脱却を図る」ものではないでしょうか。

 前半の二つのスタンザが①に相当し、フレーズの全てが日本人たる僕にはチクリと刺さります。部分的に引用しても、"全体がおそろいで/理由は疲れたと棒読みで"や、"伝染する行動で/脇に外れずに動きたい"、"全体の行いは/理由がなくたって正解で"に、"全員がおそろいで/君が誰なのか聞いてみたいだけさ"と、思考停止・同調圧力・全体主義・没個性化のフルコースです。これらが必ずしも悪であるとまでは踏み込まないものの、少なくとも本曲に於ける主人公"僕"は、この手の行動様式を悪癖と見做しているだろうと、あくまでロジカルな理解をお願いします。要するにイデオロジカルな見方をされるのは本意でないため、以降は①を修正して「集団への皮肉」と改めさせてください。


 こう述べる理由は、後半の二つのスタンザが②に相当する内容だからです。①の段階では、"僕"は未だ集団に属していたと見受けられ、その象徴が表題の「ネクタイ」なのでしょう。それが②では、"僕は後で行くだけさこの際/床にたれた 咳き込むネクタイ"と、集団から外れたことが窺えます。"この際"とあるのを考慮すると、意図的に一匹狼の道を選んだというよりは、周りに置いて行かれた結果そうなったと言えそうで、そこに哀愁を感じました。

 しかし、経緯はどうあれ前向きに転化させた者勝ちの精神性も同時に見て取れ、"僕の中で曲がる木は/そうそうない"や、"視野の中でわかるべき事ない"は、元来的な性分ではなく、不利な状況に陥って初めて芽生えた、孤高の魂であるように映ります。ただ、"僕は後で行くだけ"とあるのを加味すれば、徹頭徹尾集団に逆行するつもりではないとも解せるので、何に付けても逆張りをするような人もまた、目指す先にはないと言えそうです。


 歌詞に於けるこの一連の流れは、編曲の面でもわかりやすく表現されています。本曲の演奏時間は約7分半と、ロックにしては長尺のナンバーですが、3:38を境に前半と後半に分かれていると形容が可能で、この二分がそのまま前述した①と②に係る二面性に対応していると主張したいです。

 ①で美徳とされているのは即ち「調和」ゆえ、その和を乱す者は排斥の対象となります。だけあって、前半部の演奏は非常にかっちりとしたものになっており、バンドが奏でているサウンドは当然として、補助的に挿入されているキーボードが鳴らすシンプルな反復も、あけすけに表せば洗脳的です。レコーディングは勿論生演奏でしょうけど、同時に打ち込みらしい正確性まで宿している点をして、ハイスキルなプレイであると評します。


 このお利口な演奏に変化が加わるのが3:25~で、前半部のクロージングが展開された後に、3:38~の上向きなグルーヴで後半部へ突入です。ここで曲の雰囲気が変わるため、このタイミングを転換ポイントとしましたが、真に「調和」を意識した聴き方をするならば、その和を乱す「逸脱」のほうに重きが置かれ始めるパラダイムシフトは、長めのアウトロにあたる5:17~とすべきかもしれません。歪み&ラウド系のエフェクターを通したギターの音だと推測しますが、いきなり主旋律に踊り出てメロディアスなラインを奏でていく自由奔放なソロに、解放感を覚えなければ嘘でしょう。ドラムスが一層の激しさを得る6:42~で更に高揚感を煽られ、そのまま突き抜けて昇天エンドとなります。

 …今し方は比喩として「昇天」を用いただけですが、自分でこう書いたところ脳内に怖い解釈が降って湧いたので、ついでにそれも披露しておきます。後半の歌詞内容を「負方向への前向きさ」と捉えれば、"床にたれた 咳き込むネクタイ"は、自害のメタファーかもしれないと過ってしまいました。語弊は承知ですし、実際の向き不向きについては知らないと前置きは必要ながら、「ネクタイ」は定番アイテムのひとつですよね。後半のアッパーなアレンジも、近付くお迎えのサウンドスケープだとしたら、明るさの裏に怖さが滲んできます。